視界の彩りを知らぬ者
既に辺りは真っ暗森の中で多くの葉の間から零れた光がある一人の男にスポットライトが当たる。だが、彼の目に映る色は白と黒のたった二色しか存在しない。静まり返った森の中で立ち止まって深く深呼吸をしながら魔力感知で辺り一帯を探り隠れているかもしれない敵を探しいない事だけを確認して再び歩みを続ける。
彼は色を探す為の事ならどんな手段を取ろうがお構いなしなのだ、そんな自分自身の色探しの旅の中風の噂を嗅ぎ付けたのだ。何やら商業国家で魔力が完璧に扱えるお伽噺の賢者の石という代物が出回るらしい…賢者の石は【錬金導師】が保管、隠したとばかり思っていたがあの出来損ないの弟子が国に横流し込んだ訳だろう。
「人の遺物を勝手に漁って争奪戦を企てるのもどうかと思うが…それに希望を見出して乗っかる俺も俺で情けないものだ」
独り言を呟き、争奪戦の中というのに見合わない素振りを繰り返し続ける。ただゆっくりと景色の変わらない道を歩き続けると背後から視線を感じ振り返ると会いたくない人間が魔力感知に引っ掛からない魔法の効力のせいか本当に抜け目のない奴だ。それくらいの事してないと【神出鬼没】など勤まらないか
「俺の所に来る時点で何となく察したお前もか」
「やっぱり似た者同士ですから」
「お仲間はどうした?大切で大切で仕方ないのに不思議だな」
奴は挑発を軽く流しポケットの中から一つの石を取り出したが全く色何か分かる訳ないのに…まぁ、人格が捻りまくっている奴が持っていて当然か。今は俺もアイツも戦う気が無いみたいだからありがたいんだか違うんだか…どうせここに来た理由は石か
「【色奪】ペールも…持っているんでしょ?」
「因みにだが、俺はお前らと戦いたくない。というか端から関わりたくないから俺は違う所に行きたいんだが」
「嫌だって言ったら?」
「じゃあなって言った後お前をこの場から転移させてやるなぁ…」
冷たいな、とポツリと言葉を残して用意していた転移魔法を使って強制的にこの場から【神出鬼没】を消した。最近になってくっついてきた二つ名の通りになれたんだから光栄だろ、じっくりと噛み締めながらこっから北西方向に飛んでくれってな。ロングコートを靡かせながら懐に手を伸ばし魔巻に火をつけて一服する。俺と戦いたいんだったら一人で来れば遠慮なく相手してやるのにな…
「はぁ…どうせ、今か今かって俺の事寄ってたかって殺そうと考えてんだろ?さっきも言ったがお前等と戦いたくないんだよ。お前らの首を勝手に飛ばしたことは謝るがあれが俺にとって一番最善策だって分かる筈だろ」
如何にもな言葉で騙そうにもたっぷり教育受けてる奴等からすれば上っ面の言葉に聞こえても文句は言えないな…おい、『暴食』の賢者の石さんよ。打開策とかあるか?あったら今すぐにでも欲しいんだが…情に訴えかけるように懐にある一つのポケットに眠る小石に触れると透き通る声が頭の中を響かせる。
『あら、さっきの一応私のお陰もあっての事だけど嫌味かしら?』
(ありがた迷惑っていう言葉があるってもんだ。全然釣り合ってないんだよ)
「俺たちは、一貫してボスの望む事を成し遂げる為にいる。賢者の石を寄越せば十分だ」
魔力感知に引っ掛からない魔法か?それとも隠密系統の魔法道具とかどっかしらから輸入したとかか?どっちにしろ石目当てなのは変わりないか。俺を囲むようにしているが想定以上よりも遠く間合いを取っているみたいだが一応届くは届く。一応誘ってみるが警戒が強いせいで逆効果になったがいい抑止力になるからこれもこれで十分か
「お前等若いから無理に体動かせるかもしれないが、こっちはご老体なんだ少しは労ったらどうだ?」
「ボスすらも警戒するような人物…それに賢者の石に認められた人物に労いなど不要では?」
「お前結構物言える口だな、どんな色してんのか物凄く気になる。でも、俺は行きたいところがあるんだ通してくれ」
『暴食』が勝手に【鑑定】してくれたお陰で今話している奴の名前の確認できたが本当に俺の役に立ってくれるんだか不思議だと思ったがこれは上手く活用できるな。揺さぶりかけてこの場から逃げれば自ずと楽が出来そうだしやってみる価値はあるか
「サーウェはお前さんか?四、五人程連れてアイツの所に向かってやってくれ」
「何で、私が貴方の命令を聞かなくちゃいけないんですか?関係のない人間が口出ししないでください」
「……そんな関係のない人間からの独り言だ。アイツの飛ばした転移場所は数時間前に一人面倒な奴を送り飛ばしていてな、俺と似た者同士の奴だがそれでもか?」
「ウェアルドとペルレット、イファヌすぐ転移魔法に!」
慌てふためく少女を見ながら一瞬にて組み立てた転移魔法の魔法陣に呼び寄せた仲間が枠内に入ると素早くこの場から消えてアイツの元に転移していった、仲間思いの良い奴に恵まれたな人なんか信じなかった奴が随分と変わったもんだ。それよりも…この場に残った【黒蜥蜴】の首を支える手足が五人も残っちまった、本当はあともう一人か二人はどっかに連れて行ってくれたら完璧だったのに惜しいな
再び静寂がこの場を塞ぎ切り一歩でも動いた途端から戦闘が始まることを物語っているようでこの空気は何というか嫌だった。頭を掻くと奥の方でズッシリとしていて体格の良い奴が飛び込んでくるがお仲間さんが静止を掛けてくれたお陰で殴られずに済んだ。
それでも警戒はしているということを証明するために腰に掛けている剣に手を置いておきすぐにでも攻撃を与えられる準備はしておく、意味はないが牽制って奴だ。
「引いてくれっていっても絶対言う事聞かないだろうし…やっぱお前等だけでも色の確認はしておくか」
「そういや、ネイティーちゃんは元気か?」
「?」
「何でもない、違う奴と見間違えただけだ。生憎二色しか見れない可哀そうな奴の言葉は気にしないでくれ」
反応からして全員が知らない奴か…仲間が大事とか言っている癖にこういう時は口閉じてんのか、いつか隠し通せてなくなってボロが出る事ぐらい俺でさえ分かるくらいだからな。深呼吸をして即座に無尽蔵の魔力貯蔵庫から有り余る魔力を練り上げて今の身体で十分動けるように仕立て上げる。
ゆっくりと腰に掛けていた剣を引き抜くと背後に回っていた短剣を握り締めた奴が連続して刃を振るいながら畳み掛けて来るが素早く相手の懐に入り込んで横腹に蹴りを入れ込み体勢が崩れた所を視認して剣に手を掛けて首に向かって振り切ろうとするが特段背後からの殺気を感じて数歩後ろに下がると地面が捲り上がるぐらいの力で叩きつけてきた斧を見て賢者の石から引っ張り出した魔力を利用して一時的にこの場から脱するための転移魔法で少し離れた所に転移して素早く他の【黒蜥蜴】の奴に向かって剣を突き立てる。
それにしても…こいつら独学でここまで磨いているんだろ?毎日鍛錬欠かさずやっています!とか物語っているくらいの努力をしていたりはしてそうだけど対応の仕方が魔物みたいな化け物仕様なのが少々気に合わないが、それくらい気張っているならどう対処してくる?どんな視界を持ち合わしている?疑問が尽きないが全員消せば問題ないな。
再び転移魔法で素早く剣を振り切ると喋っていた男が特段目を引く剣を手にしてこちらに刃を傾けてくる。呼吸を合わせるようにして攻撃をしてくるのを弾き返して何度か反撃を試みるが普段通りの動きが取れずにいるのにモヤモヤが残るが気にせずに叩き込んでいると隙を狙うかのように殴り込んでくる手甲を嵌めた奴も乱入してくる。
『貴方を苦しめる【飢餓】は終わり、待ちに待った【飽食】よ?』
(遅い、でも良いタイミングだな。飽きたからか?)
返事を寄越さない『暴食』に溜息を吐くが封じられていたいつも通りの感覚は完璧に戻った事を確認して剣を一度仕舞い込みその場から避け続けコソコソと不意打ちするタイミングを狙っている奴を目標として数歩歩きながら剣を抜き取って技を仕向ける。
「【劫奪】」
「まずは一人、調子戻ったしさっさと終わらせるか」
近づかれていた事すら感じ取れていなかったトレイドートは知らず知らずの内に細々と斬り刻まれた後、何事もなく倒れ込み安全地帯へと赴いた。数秒だけ残る空っぽの体を見て斬りつけられた箇所を見るがやっぱり真っ黒にしか見れない事を悔やみながらもここまでやってくる道中に接敵した狼に酷似した魔物の親を殺されて毛を逆立てるように殺気が駄々洩れていて驚いた。
手負いの魔物はかなり面倒で考えていることよりも大きく上回って暴れ回るから次の蜥蜴を仕留めるのはかなり難儀しそうだな…再び剣を構えてこちらの動きを窺っている奴等と再び静まった森の中で刃を交わす。
【連闘劇】:歩いた歩数によって攻撃の仕方が変化する特殊な剣技。一歩歩いたら剣技は槍技と変化し一点に集中する【黒点】に、二歩歩くと剣技は双剣技として変化し【双劇:乱舞】に、三歩歩くと細剣技として変化し【劫奪】に昇華する。数多の業に昇華せし舞い踊る者に溢れんばかりの拍手を…
似合わない英雄の名は嫌いだが無歩で剣技の極致へと辿り着き名を授けようと考えた時、ふと頭の中で思いついた。誰も辿り着かない俺だけのその剣技は【■■】とでも名付けるとしよう。
―――――――――――『剣銘』ギヌ闘争日録より




