契機は勝利の風
「手癖が悪いのも面倒な…」
「あァ?声ちっさくて聞こえねェなア!」
仕向けていた〔道化師の切札〕を力強い横振りだけで吹き飛ばしながら足元を狙った攻撃を避けながら背後に隠していた《J》に【英雄の奇襲】を放たせて右肩を削るように動くが全く避ける素振りを見せない奴は笑って攻撃を受け止め私に向かって籠りに籠った拳を連続と殴り続ける。
叩き撃たれる中間を入った《K》による【王の権威】で窮地を脱することができたが動じずに攻撃を叩き込みに来るのは…少し懐かしい?霞むことのない目が何故か一瞬見えずらくなるがすぐに元通りに回復するように魔力を流すがあの記憶に嫌というほど傷として残り続けているアイツと目の前の奴が不思議と重なったのだ。
戦う前に確認も兼ねた【鑑定】での名前はボルティゴ…私の因縁の敵でもないただの部外者、奴の威を借りて好き放題している邪魔者、比べる程でもないが武器に引き寄せられているのは間違いなさそうだった。
「痛ってェ…でも何発か殴れたからその分の元は取れたか!」
「……【海王星】」
「テメッ!もう再生してやがるしその魔法うざったるいから止めろ!」
そんなこと知るか、お前が手にしているその武器がどうしようもない程邪魔なんだ。既に振り切った筈の因縁が今になって襲い掛かってくる方がおかしい、契約などすれば確実に私の邪魔になるのは分かり切っている。
こういうのは早く摘んでおかなければ…殴打によって出来た傷を【月】による治癒能力の向上により一瞬で完治して『燦澹』の剣先から生み出された【海王星】が一時的にボルティゴの周りを囲んで動きを止める。
だが【海王星】の水に『断鎌』の刃が触れるとゆっくりと、しかし着々と魔法回路を無理矢理搔き乱してこちらに突っ込んでくる。補助として〔道化師の切札〕を後ろに配置させ迫り来る偽物の【断罪人】の攻撃を受け流し鎌を振り上げた所を狙って交差するように短剣を動かし防ぐことのできない奴は素早く動く二本の短剣に為す術がなく斬りつけられるが笑っている。
「何となくだが、分かって来たぞ?これ、あれか、この痛みを利用する方法があんのか!『断鎌』がどう扱えばその分譲歩されるわけか…!」
「【斬截】」
「…………!!」
見慣れた攻撃は難なく避けてその場を脱しながらも短剣での攻撃以外で三回は今の合間に叩き込むことができた…だが、こんな状況でも清々しい態度で佇む【断罪人】により一層の警戒を向ける。
知らずと睨んでいたがそんなことお構いなしに突っ込んでくる奴はそれまでの動きとは一変して軽々しく跳ねるように動き始め振り払う鎌の動きも素早くなっていく。【淵箱】に一度手を伸ばしかけるがすぐに戻して『燦澹』に惜しみなく魔力を流し込んで相手の間合いを読み取り刃を動かす。
首を掻っ攫うために振られた鎌を左手で持った『燦澹』で抑え込み空中を泳いでいる《A》を呼び出し左手に引き込むと【巻き戻し】をして手元の《A》を《鬼札》に瞬時に取り換えて投げ飛ばす。
「あっぶねぇ…!でも、この緊迫が一番だなァ【菩提】!」
「【金星】」
連続して放たれる断ち切るだけに特化した斬撃が目一杯にこれでもかと埋め尽くされる、それに相対する繋ぎ合わせる連続して放たれた突きがぶつかり合い相殺が起き勢い良く爆ぜる。合間縫うように魔力感知で安全な場所を即座に探して動く自分とは真反対に傷を負いながらも突っ込んでくる存在がより忌々しく思える。
深呼吸をして魔力を練り上げ着々と準備を進めて、近距離で連続して振り回す『断鎌』を自分にとって必要のない関節を外し避けて縦横無尽に大地を駆け、滑りながらも連続して援護を代行する〔道化師の切札〕に何度も攻撃を促す。
「猪口才と…!」
何も言わずにこちらに引き込むように誘うと何も考えず感化されてこちらに飛びつくボルティゴが意気揚々と攻撃を与えようと動く所を狙って剣を思うように動かす、乾いた笑いが攻撃を弾くボルティゴの口から零れるがそれすらも億劫にさせない程の剣と鎌の衝突が、剣劇が広がる大地に木霊する。
出し惜しむと一瞬で刈り取られる、その事だけを念頭に剣と自由に動き回る短剣を交互に叩き込み続ける。足元から膨れ上がる【海王星】で相手の動きと自身の安全を確立させる為に使い、【火星】を『燦澹』に纏わせて一撃に重みを増し、絶え間なく飛ばし続けて来る斬撃には溢れんばかりの【金星】の輝きを見せつける。
この体で今まで以上の動きを出せるようになった時、背後から竜を模す風が戒めるように身体に打ち付ける。鎌を切り上げ空いた腹に二回蹴りを放ち後ろに下がって後ろを振り向く。
「主は…勝利を収めたようですね」
「フリデップの野郎…ここで長々と戦っても主戦力の一人がやられちまったら一人くらい倒してから離脱してぇな…」
「因みにお前が俺に齎してくれた『致命傷』が面白れぇ程振り切っていてな、どうせ下準備もしてたんだろ?このぶつかり合いが第一回の【断罪】になるが…やるか?」
【淵箱】から取り出された一本の魔剣が再びこの世界に姿を露わにした。目の前の男はその異形の魔剣を見て顔を顰めるが覚悟が決まったのか鎌を構えて待っていた。奴は…『致命傷』と言うならこちらは『仇討ち』だ。罪だけが残り続けて未だに私の元に未練を叫び浴びせる為だけにこの手に戻って来た。
「【終止符】」
「【幕開け】」
視界が反転し、感覚が消え、衝突が止まる。
しかし、
視界が戻り、感覚が生まれ、衝突が動き出す。
「また届かねぇか…残念だ」
勝手に終わりを見せつけた偽の【断罪人】に真っ向から始まりを見せつけ魔剣に滴る血を払い落とすと鎌を手放し力無く倒れその場から消えたボルティゴを見て溜息を吐いて、【淵箱】に魔剣を自分の手から遠ざけるように奥へ、奥へと仕舞い込み遠くにいる主の元へと影を伝ってこの場から去る。
■
こちらを睨む男は一瞬姿を消して背後に回って首を狙う攻撃も【淵明闘竜】により防がれる。攻撃を弾かれて後ろに下がり、次の攻撃に移る準備をしていた。コジロウとフィンデルの洗練されてこれでもかと息の合った連携は攻撃を潜り抜けて何度か危ない所もあったが【血解】と防御に徹してくれている【淵明闘竜】が対処していた。
フィンデルの槍捌きには驚く所があったが武器の能力にかなり引っ張られているように感じ取れた、技量に合う物を扱うように言った記憶はあるが人の話を聞かないのも変わっていない。でも、武器に引っ張られて段々鋭くなっているようにも感じ取れるから十分警戒はした状態で挑んだ方がいいだろう。
先程の戦闘で【淵明闘竜】によって遠くまで吹き飛ばされていたフィンデルが丁度良くコジロウのいる所に戻っていると目的地である門の方から吹いてきた風が【血解】によって赤黒く染まった体に力強く吹き付ける。
「フィンデルの持っているその槍…どうせ勝手に崇め慕っているボルティゴからの貰い物だろ?どういう経緯で手に入れているかはどうでもいいが、武器に認められずに振るうのは自滅の道を辿るぞ」
「貴方がボス先輩の悪口を…!!」
「変に乗るなフィンデル、実際このままだとジリ貧でルウェーの周りを守っているあの小竜にやられてもおかしくはない…ここで畳み掛けるしか後はない訳だ」
軽い挑発にフィンデルは乗ったがやっぱりコジロウはそういう類には乗らないか、分かっていた事でもあったがこれくらいは受け流す事は想定済みだ。だが、話しながら雰囲気が変わったコジロウに何も反応を見せなかった【淵明闘竜】が耳元に近寄って相手に悟られぬように小さく危険だと知らせてくれた。自分が賞金狩りの中で危険人物として目を張り巡らさせた奴の一人が毛並み逆立てて牙剝き出している時点で少なからず警戒はするさ…隣にいる奴は全く気付いていないがな
明らかに先程の戦闘とは目つきが違うな…この感じ魔眼と似ているが遠からずのような曖昧過ぎて確実な答えは得られないがあれがこの戦闘で絶対邪魔になるのは間違いなさそうだな…再び【血解】を扱えるように魔力を流し込む一瞬だが一連の動きに割って入ってきた刃を【淵明闘竜】が確実に防ぎ切った後に巍巍【竜闘刃】を横に振り切り間合いに入って来たコジロウを無理矢理遠ざける。
連続して振り回すコジロウの攻撃を魔眼で見極めながら一手一手の攻撃のタイミングを意図的にずらして防御の構えを取らざる負えない状況でも掠り傷を与えて着実と攻撃を与えるように立ち回る。突きの攻撃は首を動かし避けて反撃として大口を開けた【淵明闘竜】が噛み千切ろうと近寄るがコジロウ以外の攻撃が割って入り込む。
「私だって…やる時はやるんです!赤黒い竜は私がルウェーから引き離します!」
「頼む」
押し込まれた【淵明闘竜】は屋根上を転びながらも【血刃】を放ち追撃を許さずに遠ざけるとこちらを振り返り魔力を強請ってきた。こちらに判断を委ねようと前々から自主的に動いていいと伝えた筈だが…要求された分の魔力を明け渡して安心して任せる。
血から生み出された赤黒い竜は魔法としての域を超え一時的な実体を形作られる、名は『朱褪竜ソウリン』。姿を持った白に色落ちた竜は息吹を吐くと触れた箇所からどんどんと色を吸い取る、咆哮を上げ近寄る存在の色彩を奪い、高らかに存在をこの場に知らしめる。存在に驚愕を隠せない槍兵はそれまで小竜の姿をしていた存在がこんな姿になるとは思わずに乾いた笑いをしていたが一時的に手に入れた竜特有の無尽蔵の魔力を惜しみなく使いこの場を生き地獄として変貌させるべく血の刃が駆け巡る。
「竜と契約などしていたのか…?」
「知らなくていい」
コジロウも驚いていたが構わずこちらに攻撃を向けてくるこいつもこいつで一直線に突っ込んでくるタイプだったな、【淵明闘竜】…いや『朱褪竜』はこちらに危害を与えずフィンデルとの戦闘に挑んでくれた。まずは、この化け物を押さえつける…研ぎ澄まされた感覚で引き延ばされた【血解】特有の時間間隔でゆっくりと動く中コジロウが斬りかかる箇所を悟られぬように滑らす刃を弾き勢いが乗った所で元通りの速さに戻る。
相変わらずご自慢の剣速で力押し…フェイントを仕掛け何もないように見せかけコジロウが再びこちらに攻撃を避けながら足元から【血刃】を受け流した時を狙って放つが触れもしていないのにパラパラと刃の形を崩して斬り刻むと一瞬視界が真っ白に塗り潰されるがこれはどこぞの死人から学習済みだ。
感覚だけで防がないといけない理不尽極まりないこの攻撃は必ず横振りの攻撃、【竜闘刃】を添えるように構え強い衝撃を感じたタイミングを見計らって刃を上に弾き飛ばし深呼吸をして手元に集め込んだ血を散弾させる【禍血】をばら撒くがコジロウに纏わりつく見えない何かによって血は防がれたが手はまだある。【血解】によってどんどんと生成される血を限定的に俺自身の魔力回路に流し込み足りない分の魔力の埋め合わせをここで行う。
メリットとしては、すぐに魔力を扱えるとか一時的な無制限で魔法を生み出せるなどありきたりな回答が出てくるが普段というか、こんな手段を他の人間が使わない時点で後で面倒なのが時間経過に悪化していく【血解】の強化版とでも言った方が伝わりやすいのだろうか…まぁ、碌でもない事になるのは確定という訳だ。
「【花筏】」
「【血渇】」
再び目の前を埋め尽くした見た事のない花弁は先程の理不尽の攻撃とは全く毛色が違ったが迫れば迫る程自然と力が入り滑りこむようにして避けようと試みるが埋め合わせの代償がふとした時口から零れていた。花弁を掻き分けるようにして血の糸が張り巡らされて触れた物から連続して【血刃】が放たれる、互いに触れたら致命傷になる刃の嵐の中に入り込み体に幾度も斬りつけられる事も物ともせず気力を削り合う戦闘は続く。
やっぱりコジロウの持つ刀が限界まで何かを引き出しているのは変わらないな…ボルティゴの野郎がどうせ得体の知れない武器でも渡していたら今度こそあの顔面の原型が無くなる位に殴ってやるが…今も昔も変わらないコジロウの刀はいつもと違うのは俺でも分かる。
何度も攻撃を重ね続けると言葉も発さずにただ刃と刃がぶつかり合い甲高い音が鳴り響くだけの空間が広がっていた中、遠くで爆発音とは違うが普通にしていれば出るような音ではないのは理解できるがその後に【血渇】から感じ取れた僅かだが風が感じ取れた。気に食わない奴が頑張ってんだ、自分がここで踏ん張らなかったら後で嫌味言われても言い返せないからな…動きも何故だか思った以上に動き溜めに溜め込まれた魔力がキリキリと肉体を軋ませながら攻撃を受け流し次に一撃を与えるべく共に限りなく近づき息をするのも忘れるほど夢中だった。
「『儚春』」
「『狼狽』」
怖気づく事があろうとも己の信念に従い進む斬撃は、瞬きの間に色飾った桜も絶え間ない剣劇を見せるが散り行く合い間を細く縫い進み駆け上がった孤高の狼を模した爪が眼中にいる男の首を掻き刻み力無くして静かに倒れる。互いに何も言わずに己の矛を仕舞いこの場から姿を消し、前へと歩き始めた。
「丁度お前も終わらせてくれたか…ありがとな【淵明闘竜】」
先程まで色褪せて真っ白へと姿を変えていた『朱褪竜』はただ魔法の小竜として再び攻撃から守るべく姿を隠してその場に留まる。溜息を吐きながら愚痴を言い続けるボロボロの後ろ姿を見て竜が小さく鳴くと彼は「置いてかないよ」と小さく優しく呟いた。
【巻き戻し】:さぁ、所持者が仕切り直しをご所望だ!望まれた手札が率先して動け、既に魔力は済まされている。各々かき回せ!!




