水天一碧に飾れ、幾万天の星々 其の二十八
【完全再現】が適応するまでの間、確かに私の体には【血の権力者】によって致命傷の傷を負わせて痛みという痛みを浴びたわけだが私は主の【死霊魔法】から死累人となり大した怪我も痛覚も差して感じない、というより感じさせないように自分で調整していたのかもしれない。
主と離れた際での行動でよく回復魔法を掛けられたのはもしかしたら気づかない内に怪我をしていた所を治してくれてたのかもしれない、こんな言い方になっているから大体察する事ができるが本当に【完全再現】を使うまでは痛覚は感じもしなかったし無かった。
だが、主の偽りの姿に変わって分かった。生前賢者と名乗る魔法専門の者と死を跨ぐ決闘をしていた時に触れる事のなかった魔法の圧倒的な力に何度も死にかけたあの死闘が亡骸である私に残っていた。生に縋って、死に恐れを抱くあの感覚が蘇った。
頭が鮮明にそして現実に引き戻す、【完全再現】により偽りという形だが現状の主の似姿として〔道化師の切札〕の一本《鬼札》が嘘で塗り潰してくれた。
手元にある変光星だって元は《鬼札》だが今は真似て欺いて、呆気に取られる観客を心の中で嘲笑う道化師になれたら…そんなちっぽけな好奇心がここまで正確に創造魔法が反映してくれた。【血の権力者】の斧槍によって負わされた怪我は嘘で覆い被せ、痛みも、色んな物は塞ぎ隠せ。だけど隠し続けていた狂気と二つの好奇心を全面に…
「確か…初めは【起爆】で火力を上げるだったか」
『!??』
完全に呆気に取られている【血の権力者】を他所に小さく呟きながら主の仕草を真似ていく。主が首に付けていた装飾品…名は〔秘華の炎導〕。この変光星の言わば付属品も再現できるかと想ったのだが…気の乗らない《鬼札》は私が思う再現はしなかったがこの為の布石と言うべきか小細工は仕組んである。
「【魔力への好奇心】」
付属品の持つ魔力回路と変光星の強化に対する模倣はこれで十分だ、【魔力への好奇心】は変光星は嘘を燃やして湧き出る力は【血の権力者】の頭を潰すのに費やす、変光星を横に薙いだだけで爆発により建物は壊されるが振り切る前に真っ赤な斧槍のせいで頭に当たる寸前で止められてしまった。だが、途中で止まるほど変光星は意志は弱くはない。
【超煌弾】が斧槍とぶつかると同時に溢れ出し至近距離の攻撃をぶつける。目の前で爆発する【超煌弾】は芸をより引き立たせる小道具だ、まだまだ目を惹かせるのには弱い。変光星に魔力をあるだけ流し込み爆発の中【起爆】をしながら【血の権力者】に差し向ける。手元以外にある《鬼札》は勿論、アウェルを守るために飛ばした《K》以外の〔道化師の切札〕は全て爆発の中にも突っ込まさせる。
「【金星】…!」
後に続くようにして自らも突撃を行うが顔のスレスレを通った斧槍が【血の権力者】の生存を教えてくれた。だったら攻撃を当たらないように【金星】で対処する。変光星を〔道化師の切札〕を動かすが爆発の光の中には【血の権力者】はどこにもいなかったが《J》と《Q》がすぐに私に教えてくれた。
既に【血の権力者】は後ろに動いていたのだ。
『光の中はこの外面の得意分野だ、道化には丁度良い目眩しだっただろう』
「両手に斧槍…守護者の戦闘スタイルか?」
『さぁ…こっちの戦闘スタイルが崩されて気味が悪いが色々と使い勝手がよくて助かる部分もある』
背後に回っていた【血の権力者】はそのままこっちの攻撃を仕掛けるわけでもなく後退して両手に持つ斧槍を斜めに交差させてバツ印を作るがここまで届くほどの長さではない斧槍を使って攻撃をするのかと思ったが嫌な予感がして《J》を前に出させて【王の膝下】を使って【王の権威】に近い能力を出させると遠かった私と【血の権力者】の間合いさえも関係なく届かせた。
何故か遠いはずだというのに攻撃は届いた…守る事ができたがどういうカラクリか気になるが私のやることは決まっている。
『届かないだろう?道化がどう踊り狂おうと関係がない』
「確かに今の【爆発型】である変光星だったら射程が足りなく爆発も通らなそうですがそれだけではないんですよ」
主の動きはその場その場の状況で変光星の型を変えていた、相手に変光星の手を教えてしまうのはアレですが勝つためには手段を選んでいる余裕はないので使える物は全て場に並べてしまいましょう。
嘘で埋め尽くした変光星は姿を変えもう一つの型である【回転型】に切り替えて即座に【恒久】を使う。魔力が変光星に流れた途端蛇腹剣へと形が変わった変光星を振ると【血の権力者】に向かっていた体が勢い良く反対側へと体が振り切られる。
今までに味わったことのない衝撃が体に回るが逆に私は確信した、これは使えると。私は〔道化の切札〕を持っている、主は〔道化の切札〕を持っていない。変光星に備わる【回転型】に秘める悪さを引き出せるかの差が生み出していることに気づけた。
【回転型】はただ単に力の向きが固定されているのだ。発動と同時に変光星が刃を向ける方向は発動者の進む方向の逆であるのだ、ならどうやって刃の矛先を変えるのか、その答えは『力の向きを変える』だった。この型を生み出した桜鉑蟷螂は戻していたのだけだった自身の糧である月日の光へと変換させその過程で生み出された余分な力が回転としてただの副産物として攻撃に使われていた。
地面に叩きつけられる前に〔道化師の切札〕を配置させて変光星の刃を一つ弾くとそれまで自身の思い通りに動かなかった変光星の刃は自ずと【血の権力者】の元へ牙を向けた。
「私はこの使い方をした後の主は見た事がない為真似をする事はできないが…即興として対応する事はできる【彗星】」
『【屈折異常】』
変光星ではなく元の《鬼札》を並行しながら行う剣撃は【血の権力者】の元へすぐに届き両手に持つ斧槍で攻撃を弾こうと試みるが通り抜けそのまま通り過ぎ攻撃は不発に終える。
『面白い、だが先も言っただろう届かないだろう。というよりも届かせてもいないのだ』
「なら、嘘と共に届かせるのみ」
【透過】により攻撃を避けられそのまま【彗星】は天高く昇って行ったのを確認し斧槍を首に掛けようとする攻撃を〔道化師の切札〕によって弾かれた変光星が勢い良くぶつかり合い火花が散る。そのまま攻防は地面と接触するまで続き私は受け身を【血の権力者】はもう一方の斧槍を地面に突き刺し衝撃を和らげて着地し私が素早く仕向けた攻撃を払い切る。
そのままの勢いで押し切るべく足を前に踏み締めそれに呼応するように反対方向に動く変光星を《A》と《Q》が弾いて《J》が先導して攻撃を仕掛けその合間を縫うように私が変光星を振るい仕向けられた攻撃を《J》の【王の膝下】で【女王の領域】で防ぎ、元に戻し攻撃という攻撃を相手にさせないようにする。
攻撃が段々と熾烈になり一手の判断の誤りが命取りになるような攻防になりその場の建物は勢い良く吹き飛ばす中変光星がギリギリと音を立て始めた、不調でも起き始めたのだろうか。それとも【完全再現】に限界が来たか?しかし体の魔力が止まった訳でもない…だったら何だというのだ?
再度変光星に魔力を流し入れて攻撃に移ろうとする為に〔道化師の切札〕で弾こうとするが当たる前で刃はそれまでの攻撃よりも素早く動き【血の権力者】に届きそれまで【透過】や斧槍で防がれ避けられていた攻撃は斧槍を砕き、腕を抉り吹き飛ばすがすぐに魔力が腕を引っ張り元通りに治し斧槍も砕けたがすぐに代わりの物が造り出され何事もないように振る舞っているがすぐに剥がしてやる。
変光星は偽りの形ではあるが【回転型】の本質である桜鉑蟷螂の力の大部分である【還元】を果たしつつあった。月の光を糧に力を生み出し本能的に壁などの障害物に当たり自身の体すらも破壊し砕き同胞にさえもぶつかり砕け落ちた破片を喰らい生き続けそれすらも還元した桜鉑蟷螂はより強い個体へと変貌しようと試みていたのだ。
その【還元】という力をそのまま武器として使えるようにしたのが【回転型】でありジェバルはこれを多方面の物体にぶつけることで浪費し続ける月日の力を外部への衝撃によって【還元】を促してより破壊的な力へと還元していたのであった。【回転型】は外部からの衝撃を求めて反対方向に進む際に多方面に刃を動かす、そこに目をつけたウェールは〔道化師の切札〕を使って力の方向を一気に集中させ本来出せる攻撃へと変わっていった。
だが【還元】を行うにも限界はある、実際に【還元】を繰り返して強靭に強固になった桜鉑蟷螂がいると記された文献が機械族が住み近代化を成し遂げた機械帝国デュータの記憶データに残されている。限界に至たるほど【還元】を繰り返した変光星は制御に回って完璧に力を振るう状態へと変わったのである。
変な音が変光星から聞こえたのは魔力回路が壊れたわけでも【完全再現】の効果が切れるような不調ではなく今まで非常だったのがただ平常になった事を知らせる合図だった訳なのだ。
破天荒で制御という言葉は存在しないのではないかと錯覚してしまうほどの捻くれの【回転型】が突如として攻撃が正確に向くようになった、それまで攻撃の向きを狙うために〔道化師の切札〕を配置するのに呆れるほどの手間がかかったがここまで楽になるとは思わなかったが使える手札は全て使って勝つ。
先程の攻撃で様子見として後ろに下がって【血の権力者】は静かにこちらを窺っているが…こちらが動くのを確認するとそれよりも私よりも素早く攻撃を出す為両手の斧槍をこちらに形を曲げながら牙を向け、それにピッタリと合わせるように〔道化師の切札〕の《J》と《Q》が攻撃を受け止め《A》と共に変光星を振るう。
呼吸すらも忘れさせるほどの攻撃が再び始まる中両者とも武器同士が削り合うようにぶつかり弾かれたその時一本の刀が熾烈な戦いに割り込んできた。目線は【血の権力者】に固定だが心からの敬意は背後から伝わる覚悟はより戦いを混沌に引き込む。
「【千羽戯楽】…私に勇気を分けてくれ」
『今更来たところで邪魔だ!弱者であるお前がしゃしゃり出る場ではない!』
「役者が増えただけで喜ぶな【血の権力者】ァ!!」
アウェルに向かって放たれた攻撃は私が気にせず変光星を振るう、既に攻撃を仕掛けていたアウェルが防御に回ることなどできるわけなくそのまま当たりそうになるがアウェルの元を回っていた《K》が【王の権威】で四回攻撃を防ぎ切り同時に斬りつける。
「【嘘混じりの閃光】」
「【星の架橋】」
『【光隠如箭】』
一つの閃光がその場の誰よりも早く駆け出し真横に嘘を滑らす。
星の輝きは剣の軌跡を辿りその場に残った星たちはまるで河のようであった。
二つの攻撃を見て魂はそれまでを思い返した。
地へ這い上がりその時の日々は全て皆を守る為に費やし、瞬く間に過ぎ去った。
海の底ではなかった真上で皆を照らす光はとても眩しかった。
時が過ぎ夜は真っ暗だと勘違いしてたいたが空には振り撒いた星が照らしてくれてたあの光景を
その時抱いたこのもどかしさも心の奥に秘めていつか大事な人に伝えよう。
『その思いがこの体が隠した最後の記憶の一部、そして見つけ出した最奥を使わしてもらうぞ淵源から生きし白曜の楼吼竜が認めた魔法…【登竜門】を!』
『血縛則【登竜門】』
淵源の竜の一柱『白曜の楼吼竜』は地に上がり『海の王』の加護無き力弱き無数の分身を持つ守護者を保護し力を貸し彼女の中に眠るただ潜在能力を昇華させる為の方法を教えた。
同じ力の分身が集結して作り出された姿は淵源の竜には届き得ないが絶対的な力を確かに手に入れた。
私とアウェルの攻撃は見事【血の権力者】に致命傷を与える形となったがまだ隠していた物があった。魔力は限界にまですり潰したせいでもう【完全再現】を続けることはできなくなったし側にいたアウェルもまた魔力は持ち合わせているが目の前の光景に驚きを隠せていなかった。
誰だってその反応にはなるだろう、【血の権力者】もといパーラの守護者フィレグは竜へと変化する術を地上で身につけていた。綺麗な姿で空を舞い竜のように全てを見下ろし口を開ける。
『道化とこの体の友よ、絶望したか?この小娘の魔法は自身の無力を脱するため死に物狂いで全てを投げ打って力を得るべく地上に駆り立て竜に頼み込み力を手に入れた』
『だが、異例も共にいる。今まさに【血の権力者】に支配されているが道化はどうこの場を演じ切る?』
「そうだな…道化は次の役者の準備を待っていた。お前がその竜の力をどう扱おうと構わないが私とアウェルだけではないことだけは忘れてはいないだろう?だってこの場にはもう道化はいないんだからな」
もう【完全再現】の状態ではない私は道化を語るには敵わない、捨て台詞を吐きアウェルに視線を送り再度攻撃を仕掛けようと【淵箱】から『燦澹』を手元に掴みゆっくりと魔力を流し込み〔道化師の切札〕も同様に準備を整え深呼吸をすると真横から【血の権力者】の高さに辿り着けるように坂の形をしつつそれでも形成された氷はとても鋭利だった。
「アウェル、貴方は戦いの中では守護者の事を…フィレグを助けることだけを考えてその刀を振るってくれ」
「……ありがとう」
アウェルは感謝の言葉を最後に【千羽戯楽】を力強く握り締め走り出した。




