召喚魔法
カノンが吹き飛ばされた瞬間、俺はスライムを使ってカノンの全身を覆った。
そして物理無効も発動させる。
魔力的には少々不安ではあるが、このまま地面に激突してしまえば間違いなく死んでしまうのだから仕方ない。
そしてその直後、物理無効を突き抜けてくる衝撃と共にカノンの体が地面にたたきつけられた。
「っ!!……ハク!大丈夫!?」
物理無効のおかげでダメージは無さそうだ。
『あぁ、しかし……あれは……』
ロックワイバーン、その名前を見た時に嫌な予感がして物理無効も発動しておいてよかった。
あいつのブレスは衝撃波に石つぶてが加わった物だった。
そのおかげでスライムの盾と魔力捕食、物理無効で守りきれた。
とは言っても、石つぶての方は物理無効で防ぎきれたが衝撃波の方は魔力捕食が追い付かなかった。
そのせいでカノン諸共吹き飛ばされたわけだが……。
「なんだったの?」
『石の混じった衝撃波だ。発動が速いうえ範囲も広い』
さっき防げたのは物理無効があったからだ。
しかし、物理無効はそう何度も使えない。
そして、カノンではあのブレスを躱すことは不可能に近いだろう。
かといって遠距離攻撃をしようにも、向こうのブレスの範囲の方が広いだろうからあまり意味はない。
どうするか……。
ワイバーンの方を見てみると、もうこちらを見ていない。
ゆっくりと崖の方に向かって移動を始めていた。
「……ハク、魔装なら勝てると思う?」
カノンにそう言われて考える。
魔装を使えばカノンは消えたように移動することが出来る。
しかし、あの上空にいるワイバーン相手には使えないし回避にだけ使おうにも魔装使用中は魔法が使えない。
俺が使うことは可能だがそもそも上空の敵相手には決定打に欠ける。
そうすると……。
『負けはしないだろうが……勝ちもない。魔装が切れるまで生き残れるってだけだな』
「…………うん」
いつにもまして悔しそうな顔になるカノン。
しかしそれは仕方がない。
今の一瞬で相性の悪さ、そしてBランクとはいえ亜竜の実力を味わったのだ。
いや、直接受けたのは俺だけども……。
そして、今のカノンでは勝ち目がないことはよく分かった。
カノンにしてみれば実力不足を感じているのだろうが、俺からすればそんなことはない。
そもそも普通の冒険者は逃げることすらできずに殺されてしまうのだから。
カノンはゆっくりと起き上がると、ここから離れていくワイバーンを見据える。
「ハク、あれやろう」
カノンにそう言われ、最近練習していた魔法を連想した。
しかし……。
『……発動時間はまだ短い。それにその間はカノンを守ってやれないぞ?』
「魔装スキルだけ貸して。そうすれば自力で如何にかする」
真剣な目でそういわれると、弱い。
『……分かった。あいつは任せろ!』
「うん!…………」
俺の返事にカノンの顔は明るくなり、すぐに詠唱を始めた。
この詠唱はカノンが扱える魔法やスキルの中でも最も長い。
普段は安全を確保したうえで訓練をしているので気にならなかったが、気配察知を使って警戒しないと危険だな。
しかし、ワイバーンのおかげか他の魔物の姿は見えないのである意味助かった。
そうこうする間にカノンの詠唱は終了し、カノンは自分の前方に魔力を集めながら発動させる。
「召喚術発動!ハク!お願い!!」
そしてカノンの声に反応して地面に魔法陣が展開し、俺の意識がカノンの中から離れる。
そして魔法陣の中心に、俺は召喚された。
『よし、後は任せとけ!』
そう言って俺は翼をはばたかせて飛び上がる。
実はこの召喚術、ムードラからレセアールに戻ってくる道中にアイリスとソルから指導を受けていたのだ。
最初は魔力を込め過ぎて召喚された瞬間にカノンの中に戻されたり、召喚自体成立しなかったりと散々な結果だったが、土竜と出くわす前日くらいには時間制限付きで戦闘までこなせるようになったのだ。
欠点として、カノンの中から出ているのでこの状態ではカノンは俺のサポートは受けられない。
ただし、スキルと魔力の共有は生きているようでカノンが魔法を使った場合は必要な魔力は俺から共有されるようだ。
一見すると便利なのだが、もし俺が戦闘中にカノンが大出力の魔法を使った場合、俺の魔力が足りなくなるという事態にも成り得る。
いざというときにスキルを使う程度なら問題ないだろうが、もしカノンも戦闘に参加しようものならいきなり魔力切れになってもおかしくはないだろう。
特に今は物理無効を使ったせいで魔力を大幅に消費してしまっている。
というわけでカノンはワイバーンの後を追って崖の方に向かっては貰うが、戦闘には参加せず極力ワイバーンの攻撃範囲外から後をおう形になる。
最悪、魔装を使えば逃げるくらい何とでも出来るだろう。
因みにアイリスとソルからは、条件付きで使用許可は貰っている。
アイリスがそばにいるとき、もしくは、カノンだけではどうにも出来そうにないと判断したとき。
今回は後者の条件に当てはまるので問題ない。
ただし、アイリスが居ないときはカノンは戦闘をしないようにと厳命されているが……。
カノンもそれを分かっているのでつかず離れずの距離を保ったまま後を付いてきてくれるだろう。
因みに俺の体のサイズだが、残念なことに全く成長していなかった。
初めて安定して召喚できた時など、カノンに抱っこされた状態で一時間ほど過ごす羽目になったし……。
自分でいうのもあれだが、こんな鱗に覆われた物を抱いていて楽しいのだろうか?
前にカノンが言っていたモフモフとはかけ離れている気がするのだが……。
その内、モフモフの何かに変身した状態で抱っこされてしまうのだろうか?
恥ずかしいのでそれだけは勘弁願いたいのだが……。
話が逸れたが、召喚術を使ったのには理由がある。
例えば物理無効などのスキルだが、この状態で全身をスライムにした状態で使った場合は魔力消費が大幅に軽減されるのだ。
それに飛行速度自体はそこまで上がるわけではないが、小さい分回避能力は増している。
そもそも亜竜と空中戦をするのだ。
ここはやはり竜として叩きのめしておきたい。
ついでにカノンを吹き飛ばしてくれたお礼もしないとな……。
倍返しくらいで……。
俺がワイバーンに近づくと、同じ竜の気配を感じ取ったのか振り返って口を開けた。
またブレスか……。
俺は翼の一部にスライムで砲身を作った。
ただし向きは後ろ向きだ。
そしてそのまま粘液爆弾を発射し、その反動で加速してブレスの範囲を抜ける。
それと同時に、いままで俺がいた場所を石つぶてが通り過ぎた。
『面倒な……』
避けてから目視したのではっきりと見えた。
石つぶての間隔自体はそう狭くない。
高速思考を使えば問題なく躱せるだろう。
ただし、あれは衝撃波を伴っているので範囲に入ってしまえば簡単に撃ち落されてしまう。
特に俺は体重が軽いからあっさりと飛ばされてしまうだろう。
衝撃波自体は物理無効では完全に防げない。
衝撃によるダメージ自体は防げるのだが、運動エネルギー自体は受けてしまうので簡単に吹き飛ばされてしまう。
さっきカノンが吹き飛ばされたのも同じ理由だろう。
因みに突き抜けてきた衝撃は、ただ単に物理無効で無効化しきれなかっただけだ。
さて、さっきのお礼もしたいし、丁度この間土竜から頂いた竜魔法もある。
こちらに転生したばかりの頃は不発に終わってしまったが、今ならブレスも使える。
竜魔法のスキルをイメージすると何となくブレスの使い方が分かるようだ。
なので俺はワイバーンがブレスを撃った瞬間の硬直を使いワイバーンに向けて口を開いた。




