第十五話 出会い②
扉を開けると、古びた木の香りが漂ってきた。
外から見てもかなり老朽化しているようだったが中もそうらしい。
木の板で作られた床は歩くとところどころへこんだり、ギシギシ音がする。
「ここがこれからナナシさんが生活する宿舎です」
「ここですか・・・」
人によってはボロすぎると感じるのかもしれないが、僕は違った。
部屋に泊まれるのだ。
これだけでも贅沢だ。
「入って左手にあるのが食堂です。基本ここで食事をとっていただきます」
食堂はギルドの運営費で経営しているらしく、冒険者志望の若者は無料らしい。
たいていの冒険者志望の人たちは僕のようにお金に余裕がないらしく、ここをよく利用するそうだ。
食堂に入り、奥のカウンターに進んでいく。
今の時間は調理場に一人、制服を着た人が作業をしているだけだ。
他には誰もいない。
「新しいひとかい?」
そう言ってこちらに向く人は体格がとても良い男性だった。
少し、白く染まった髪をきれいにまとめ、白い制服に身を包んでいる。
カウンター越しに向かい合っているが見上げなければいけないほど背が高かった。
「俺はここの料理人をしているガゼルだ。よろしく」
二ッと笑って大きな手のひらを差し出してくる。
僕も握手をかわそうと手を出す。
「ナナシです。これからよろしくお願いします」
ガシッと握られた右手は少し痛かった。
「ガゼルさんにはナナシさんの記憶喪失のことを話してもいいですか?」
ソフィさんが小声で聞いてくる。
「はい。大丈夫です」
僕もガゼルさんには知っておいてもらった方がいいと思った。
「ナナシさんはこれから冒険者見習いとして活動してもらいますが・・・ガゼルさんには知っておいていただきたいことがありまして。彼は記憶喪失なんです」
「記憶喪失?」
「はい。この街にやってくる以前の記憶がありません」
「そりゃ・・・大変なこったな。なんもおぼえてないのかい?」
「はい。名前や家族のことなども」
「なるほど・・・。それで冒険者か・・・」
ガゼルさんは意外にもすんなりと受け入れてくれた。
「なのでガゼルさんには迷惑をおかけするかもしれませんがその時はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
深々と頭を下げてお願いする。
「全然かまわねぇぜ。何か困ったことがあったらいいな!」
面倒見のいいひとなのかもしれない。
「ガゼルさんは以前は冒険者だったんですよ。なので冒険者としても何かと助けになると思います」
「まあ四級どまりだったけどな」
「四級ってすごいですね」
「ガゼルさんはこの街一番の冒険者でしたから」
「そんなに褒めたって料理くらいしか出ねえぞ」
そう言って笑うガゼルさんの右手には大きな傷があった。
もしかしたら冒険の最中に負ったものかもしれない。
「今はまだ準備中だから時間になったら来てくれや。そうしたらうまいもんを食わせてやるぜ」
「時間ですか?」
「おう。朝は4時から6時、夜は6時から8時の間に食堂に来てくれ。
その時間以外はやってねえから気を付けてくれよ」
「いつもやっているわけではないんですね」
「そりゃ俺だって兼業だからな。いつもってわけにはいかねえのさ」
「兼業ですか?」
「ガゼルさんは料理人の他に鍛冶屋を経営していますよ」
「鍛冶屋!?」
「なんかあったらうちの店にきな。『ガゼル鍛冶屋』だぜ」
「分かりました。その時はお願いします」
「これから部屋に行くんだろ。そのあと食べに来な」
「分かりました!」
「それでは行きましょうか」
僕らは食堂を出る。
てっきり部屋に行くのかと思ったが、ソフィさんは入口右手の部屋に向かった。
「ここは資料室です。ここでも勉強することができますよ」
そう言って見せてくれた部屋にはたくさんの本があった。
ギルドで見た部屋と同じような感じだ。
中には僕と同じくらいの年齢の男の子が二人、本を読んでいた。
「ここにいたんですね。クルスさん、ライオットさん」
ソフィさんは知っているようだ。
二人は本を置いてこちら向いた。
金髪に碧眼の端正な顔だちの少年と青髪に黒の瞳の少年だ。
どちらがクルスで、どちらがライオットか。
「僕はライオットです。よろしく」
「俺はクルス。よろしく」
「僕はナナシです。よろしくお願いします」
どうやら金髪の少年がライオット、青髪の少年がクルスのようだ。
「僕たちと同じくらいかな。何かあったら聞いてね」
「その時はお願いします」
二人とも鍛えられているのが服の上からでも分かった。
ガゼルさんもそうだが、冒険者は皆こんな感じなのだろうか。
「ではお部屋に案内しますね」
ソフィさんはそう言って部屋を出て二階に上がっていく。
僕も資料室を出てついていく。
どうやら部屋はすべて二階にあるようだ。
10ほどだろうか。
少ないように感じられるが冒険者となったら出ていくのだからこれくらいがちょうどいいのだろう。
そうして二階に上がり、角部屋に案内された。
「ここがナナシさんの部屋です」
ソフィさんが部屋の鍵を開け、扉を開ける。
中は思っていたよりもきれいだった。
ベットと小さなテーブル、それと少しの収納空間。
物は少ないが、問題はないだろう。
部屋には一つ窓がついており、日が差し込んでいる。
「どうでしょうか?」
「すごいです。こんないい部屋を使っていいんですか!?」
「はい。ただあまり壊したりしないでくださいね」
「もちろんです。大切に使わせていただきます」
「それでは私はこれで失礼させていただきます。何かあったらガゼルさんに聞いてください」
「ここにはガゼルさんの他にギルド職員の人はいないんですか?」
「そうですね。ここには基本的に、冒険者見習いの方しかいません。
ガゼルさんもいつもいるわけではありませんから」
「ではすべて自分でやるというわけですね」
食事は食堂でとればいいとして、掃除や洗濯など一人でできるだろうか。
不安になる。
「そうですね。ただ、これも冒険者としての修行の一つです」
「修行?」
「はい。冒険者は基本的な家事などができなければ冒険などできませんよ」
「確かにそうですね・・・」
不安そうな僕を見てソフィさんは微笑みながら言った。
「定期的に私も様子を見に来るので、安心してください」
「ありがとうございます。頑張ります」
「では、私はこれで失礼します」
「はい。ありがとうございました」
ソフィさんは部屋を出ていった。
一人になった部屋で僕はとりあえず、窓を開ける。
日も暮れている。
今日はこれで終わりだ。
ビュウっと夕方の風が部屋に吹き込む。
夕焼けに染まる街はとてもきれいだった。
「よし!がんばろう!」




