第十三話 別れ
それから僕はソフィさんとこれからの予定について打ち合わせをした。
ソフィさん曰く、僕が冒険者になるには圧倒的に知識が足りていないらしい。
そのため、普通の人とは異なり、僕には膨大な勉強量が必要となる。
勉強には先ほどの部屋を使うらしい。
どうやらあの部屋は僕のような冒険者志望の人が勉強するために作られたようで基本出入り自由とのこと。
ただし他の人も利用するため、部屋から本を持ってきて、受付の机で勉強するよう説明された。
これから自分で勉強しなければならないのは心配だが、頑張るしかないだろう。
そのような話をして、僕はソフィさんとともに部屋を後にした。
「どうだった?ソフィ?」
椅子に座りだらっと腕を机に投げ出しながら、ステラさんが聞いてくる。
ソフィさんはその光景に少し、呆れたような表情をした。
「ナナシさんは記憶喪失だからかなり頑張ってもらうわ。
ていうかそれくらいステラも分かってたでしょ?」
「もちろん。でももしかしたら~って可能性もあるじゃない?」
「それはそうだけど・・・」
「それで。これからナナシはどうするの?」
ステラさんが僕を向いて聞いてくる。
「ソフィさんの言うとおりに、勉強から始めようと思います。
今のままでは冒険者にはなれないようなので」
「そうね。私もそれがいいと思うわ。ソフィは頭がいいからね。どんどん頼るといいわ」
「何でステラが言うのよ・・・」
ステラさんが自慢げに言う。
二人の会話はなんだか弾んでいて楽しそうだ。
「じゃあ私はそろそろ行こうかな」
ステラさんが服をささっとはたき伸びをしながら言った。
「これからステラさんはどうするんですか?」
「別にこれからも冒険者として活動するつもりだけど・・・
さてはナナシ、寂しい?」
からかうようにステラさんにいわれてつい反論してしまう。
「違いますよ。ただ気になっただけで・・・」
僕の反応で満足したのかステラさんは二マリと笑う。
「大丈夫よ。私、しばらくはこの町にいるつもりだし。どっかでまた会うでしょ」
「それはそうですけど・・・」
冒険者は危険がつきものだ。
僕は今まででそれを体感している。
だからこそ、今日が最後になる可能性もある。
そんな僕の不安を感じ取ったのか、ステラさんが落ち着いた声でこう言った。
「また会ったときは一緒に冒険しましょ」
ステラさんが小指を立てて僕の前に突き出す。
「ほら約束。はやくしなさい」
「ど、どうすればいいんですか?」
僕は何もわからずに慌ててしまう。
そのよう様子にじれったさを覚えたのか、グイっと僕の右手を引っ張り、小指同士を引っかけた。
「これ、約束の証。ちゃんと守らないと罰があるから」
「え!?そんなのあるんですか?」
「ごめん。ないわ」
「嘘つかないでくださいよ」
記憶喪失をいいことに、好き勝手言わないでほしい。
「じゃあ私、いくから」
そう言って颯爽と立ち去ろうとするステラさんの背中を見て思った。
僕はこれでいいのだろうか?
なにか言うことがあるのではないか?
もしかしたらこれで最後かもしれないのだ。
後悔の無いようにしなければ。
僕は少し考えて、立ち去ろうとするステラさんの服を掴んだ。
「ちょっと、なによ」
怪訝な顔をされるが気にしない。
「僕、ステラさんに会えてよかったです。本当にありがとうございました」
僕の言葉は予想外だったのかステラさんは何も言わなかった。
「僕、頑張るので、待っていてください」
精いっぱいの言葉を僕なりに言う。
「いやよ。私、待ってるのは嫌いなの」
「え!?」
「第一、私、そんな健気なやつだと思う?だから待ってられないの」
そう言ってステラさんは翡翠の瞳に力を入れて言った。
「だから追いついてきなさい」
自信にあふれながら、ゆるぎない瞳で立っている。
僕の憧れる冒険者は、やはり恰好よかった。
「分かりました」
僕も決意を固めて返事をする。
その後、ステラさんは悠然と立ち去った。
僕に圧倒的な姿を見せつけて。
「やはりステラはかっこいいですね」
ソフィさんが話しかけてくる。
そうして初めて僕がギルドの受付前でこんなことをしていることに気づいた。
「うわ!?ごめんなさい」
恥ずかしさで赤面してしまう。
周りの冒険者にも奇怪な目で見られている気がする。
「ところで・・・先ほどの言葉、私の頼みを聞いていただいたということでよろしいですか?」
「はい。それで構いません!」
「分かりました。では私もギルド職員として全力でご協力させていただきます」
ソフィさんが恭しくお辞儀をしてくる。
「はい!よろしくお願いします!」
不安はあるが後悔はない。
あの人に追いつけるように頑張ろう。




