第十話 脱出
目を覚ますと、まだあたりは薄暗かった。
体を起こし、伸びをする。
そうして少しづつはっきりしてくる意識とともに、僕は起き上がった。
寝床を出てステラさんのもとに向かう。
「おはようございます・・・」
「おはよう」
ステラさんはあれから見張りをしていたはずなのに、眠そうな表情を見せなかった。
「朝ごはんはどうしますか?」
「また、携帯食料でいい?」
「いいですよ」
ステラさんがガサガサと荷物をあさり、出てきた携帯食料を渡してくれる。
僕は水を用意して、水分補給をする。
朝の澄んだ空気の中で飲む水は不思議と美味しかった。
くすぶっていた火を起こし、周りの手ごろな石の上に座る。
「今日はどうするんですか?」
「今日はこのまま森を出ようかと」
「ついにですか」
昨日のステラさんの魔法を使って森を抜ける。
ついにこの日が来たと感慨深くなった。
「もう森の出口までは近いんですか?」
「そうね。半日くらい歩けばつくと思うわ。それにそろそろ出ないとヤバいわ」
「というと?」
「食料が尽きる」
それはそうだ。
もともとステラさんは一人でこの森にきて一人で出ていくはずだった。
だから、一人分の食料しか持っていないはずだ。
用心して多めに持っているとしても僕によって心もとない状況になっているのは確かだ。
「ごめんなさい・・・」
「私がやりたくてやったことだから構わないわ」
「ありがとうございます」
ステラさんにおんぶにだっこの状態でここまで来ている。
「さ、早く食べて出発するわよ」
「はい」
そうして準備を整えた僕らはまだ眠っている森を歩き始めた。
歩き始めてすでに数時間。
ステラさんが魔法を使い、先導する。
僕は後ろをついていくだけだ。
滝を横目に歩き、ウサギやシカのような動物ともあった。
歩けば歩くほどいろいろな魅力に触れていく。
やがて歩き続けること半日、ついに出口付近まで来た。
「もう少しよ」
その言葉に嬉しくなり、足に力が入る。
そうしてついにこの時が来た。
僕はステラさんとともに森を抜けた。
気分がいい。
自分でも高揚していることが分かる。
目の前に開けた草原が見える。
今までは周りが木に囲まれており、閉塞感があったが、開放感がある場所だ。
風が吹き抜け、草花を揺らしている。
近くには青色の花が咲いていた。
その光景に僕は目がくらむ。
一日目は、自分一人という孤独に押しつぶされ、絶望していた。
二日目は、それでも諦めずに生きようとした。
三日目は、初めて魔物に襲われ、ステラさんと出会った。
四日目は、ソリアを手に入れるために冒険をした。
五日目は、こうして森を抜けることができた。
振り返ってみると五日だったのかと思えてしまう。
あまりにも濃く、刺激的な五日間だったことは間違いない。
僕は深呼吸をして、目の前に広がる世界を見つめる。
こうしていると、自分はこの世界で生きているんだと自覚できる。
その後、僕は横で魔法の目印を解除し終えたステラさんの方を向き、頭を下げた。
「ステラさん、僕を助けてくださり、ありがとうございました」
「どういたしまして」
自慢げな表情で言われるかと思ったが違った。
それは初めて見る、やわらかい笑みだった。
「これからどうするの?」
「そうですね・・・」
僕は少し考えて、こう言った。
「冒険者になろうと思います」
「冒険者?」
「はい。記憶のない僕は以前どのように生活していたか分かりません。
なのでどうせならやりたいように生きようかと思いました」
「家族とか、友人とかは探さないの?」
「いえ。探します。もしかしたらいないかもしれませんが、いるのであれば
ちゃんと会いに行くのが筋だと思って」
本当はもう一つ理由があるのだが、ステラさんに言うのは恥ずかしいため言わなかった。
「確かにそうね。ナナシがいなくなって心配してるかもしないし。それがいいわ」
頷きながらステラさんが同意する。
「はい。それにそういった人を探しながら生きていくのに冒険者は最適かと」
「ちゃんと考えてたのね」
そういってステラさんが僕の肩をポンッとたたく。
「よく頑張ったわね。えらいわ」
率直だが一番うれしい言葉だった。
僕は少し浮かんでくる涙を隠すためにうつむく。
「あれ、泣いてる?」
「泣いてません!!」
「そんなんで冒険者できるの~?」
「できますよ!!」
小突きあいながら言い合いをする。
「何はともあれ、脱出おめでとう!」
「やりましたね!」
そうして僕らはハイタッチをして冒険の成功を喜び合った。
太陽の光が僕らを照らしていた。




