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この滅びゆく世界の車窓から  作者: ふっしー
第一章 幼馴染とAI少女
8/12

謎の部屋


「狭いけど、なんとかいけるかな」

 

 小さなランタンで暗い隙間を照らしながら、ルキはゆっくりと隙間の中を進んでいた。

 しばらく進んだところで、若干の刺激臭が鼻を突く。


「……なんだろ、火薬の臭いかな……?」


 こんな場所で火薬の臭いがするのは妙だ。

 勘違いかも知れないと、何度も臭いをかいで記憶の中を検索したが、やはり思い浮かぶは火薬の臭い。

 まず思い浮かんだのは、最近多発している爆発事件。

 あれは魔力管(メイジパイプ)の故障が原因だと勝手に想像していたが、もしかしたら真相は別にあるのかも知れない。

 火薬の臭いは進めば進むほど濃くなっていく。

 そして少し広い空間が現れた。


「どうやらここで行き止まりみたいだ」


 ランタンの灯りに浮かんできたのは、真っ黒な壁だった。


「これって、連結橋のドームなのかな」


 連結橋は全体がドームに覆われている。これがドームの一部である可能性は高い。


「ちぇ、もしかしたら車窓があるかなって期待したのに。つまらないなぁ」


 コンコンと壁を叩いてみても、音はほとんど返ってこない。よほど分厚い壁なのだろう。

 この壁はただのドームの一部。特に面白いこともない。

 ルキはがっかりしながら来た道を引き返そうとした。


「あれ……?」


 ランタンの灯りに照らされて、壁を叩いた手が写る。その手は、なんと真っ黒に染まっていた。


「うわぁ! 真っ黒だ!」


 手を匂ってみると、煤の匂いがした。

 そうだ。鼻は麻痺してしまったけど、ここは火薬の臭いに包まれていた。


「まさか、あの壁を壊そうとしていた人がいた……!?」

 

 一体何のために? ノア号の破壊が目的? それとも別の何かがあそこにある?

 ルキはもう一度黒い壁に手を当てて、何かあるか探ってみた。

 すると壁の中央に、小さな穴を見つけた。


「……これ、鍵穴だ。もしかしてここは金庫なのかな」


 ここが金庫だとすれば、火薬の臭いや煤も説明できる。

 誰かがこの場所を発見し、爆破して内部を見てやろうと考えたわけだ。

  

「何か文字が掘ってある。……えっと……『ノアの鍵』の主を待つ……? 一体どういう意味だろう……?」


 その意味はまったく理解できなかったが、この鍵穴と文字は、ここに何かあることの証明でもあった。 

 

「鍵かぁ……。……ん? 鍵?」


 自宅や職場には鍵はないため、ルキが持っているのは、さっきアユラから貰ったこの鍵だけ。

 アユラは言っていた。


 ――『この鍵には秘密がある。必ずお前の力になってくれる』と。


「ハハハ、まさかね」

 

 ルキは半信半疑に笑いながら、鍵穴に鍵を挿してみた。


「――――あれ……?」


 鍵は鍵穴とぴったり一致し、くるっと回すとカチリと音がした。

 ――その瞬間、真っ黒だった壁が、神々しく輝き始めたのだ。



「な、なんなの、これ……!?」


 黒い壁の真ん中に一筋の光の線が入り、壁は音もなく開いていった。





 ――●〇●〇●〇―― 



 


「……な、なにが起きたんだ……?」


 扉が開き切ると、光は消えていく。

 眩んだ目は少しずつ暗闇に慣れていくが、それと反比例するように、目の前で起きた事象に、ルキの頭は混乱していった。


「壁の中に部屋がある……?」


 目が完全に闇に慣れたところで、ルキは部屋の中の様子を伺った。

 おそるおそる室内へ侵入し、周囲を確認したが、そこには見たこともないような装置が大量に置かれていた。


「な、なんだこれ……!?」


 壁の至る所に、黄緑色の線が伸び、淡く青色に光る箱もある。

 魔巧技師見習いとして数々のデバイスを目にしてきたルキだが、ここにあるものすべてが初めて見るものであった。


「アイレスギアの技術じゃない……。ここはフォルドニアとの連結橋だから、フォルドニアの技術なのかな……?」


 そんな独り言を述べたが、頭の中では違うと分かっていた。

 可能性があるとすれば研究の国メルキトロンの技術だが、それもどうもしっくりこない。

 壁の緑色に光る線は、すべて中央に置かれた台座へと向かっていた。

 青く光る装置も、それを中心に配置されているようだった。

 ルキは恐る恐る中央の台座へ向かい、覗き込んだ。


「あれ? これ、魔力回路かな?」


 台座の上は、複雑な魔力回路が剝き出しになっていた。

 そこで気づいたのは、この回路が破損していることだった。


「いくつか線がないし、魔力漏れもあるなぁ。部品も足りないし……えっと、僕の持っている部品で代用できるかな」


 工具一式は常に持ち歩いているので、修復作業は可能だ。

 しかし、この部屋の設備はルキの知らない技術ばかり。

 修復なんて出来ないんじゃないかと内心思いながらも、ドライバーと熱ごてを取り出して修復を始めてみた。


「……ここの部品はガラスチップで代用できるな。ここはリングスリーブをはめて……」


 確かに知らない組み合わせの回路だ。でも何故かルキには、この回路の修復が簡単に思えていた。


「ここを繋いであげて――できた……!」


 最後の線をガラス線で繋ぐ。

 すると壁の緑色の光る線が、台座に向かって走り始めた。

 そして――。


「だ、台座が開いた!?」


 魔力の供給を受けた台座は、パカッと開いて中を露呈したのだった。

 何が出てきたのだろうと、ワクワクしながら台座を覗く。


「また鍵穴がある」


 台座の上には何もなく、文字もない。ただ小さな鍵穴が一つあるだけだった。

 この部屋の入り口を開いたこの鍵なら、この鍵穴にも合うかも知れない。


「ど、どうしようかな……?」


 ルキは少しだけ躊躇したが、やはり好奇心には勝てず、台座の鍵穴に鍵を差して、意を決して回してみた。

 ――その瞬間。


「うわぁ!?」


 瞼を閉じてもまだ眩しいほどの強い光が、台座から放たれた。

 ルキは恐怖で、思わず身体を丸める。


 ――『ほほう、こんな小僧が我が主になるとはな』


「……声?」


 台座の光は、すぐに収束した。

 ルキは目を開けて部屋を一通り見まわしてみるが、台座に集まった光が消えていること以外は、入った時と変わりない。

 身体の方も異常はない。耳も正常に音が聞こえている。

 変な幻聴が聞こえたと思ったが、きっと気のせいだろう。

 内心ホッとして、小さく深呼吸した。


「あ、そうだ。忘れずに抜いておかないと」


 光を失った台座から鍵を抜く。

 しかしその鍵だけは、元通りとはなっていなかった。


「鍵が光ってる!?」


 引き抜いた鍵は、うっすらと光り輝いている。当然アユラからもらった時には光ってなどいなかった。 

 

「な、なんなんだ、この鍵……? もしかしてデバイスだったのかな……?」


 台座から魔力を供給されて光っているのか。なんにせよ、この台座影響であることは間違いない。

 とはいえ鍵は光るだけ。何か害を及ぼす訳では無い。


「まぁ、いいか。それにしても、この部屋はなんなんだろう……?」


 何故ノア号にこんな部屋が存在するのか。誰が何の目的のために作ったものなのだろうか。

 当然考えても答えが出るはずはないが、少なくともこの部屋には何か秘密があるはず。それも価値のある秘密だ。

 何者かが火薬を使ってまで部屋に侵入しようと試みているほどだ。余程重要な秘密なのだろう。

 つまりルキは今、このノア号に隠された秘密に触れてしまったというわけだ。 


「親方に相談してみよう」


 部屋や鍵について、アユラなら何か知っているかもしてない。

 今後のことも含め、一度アユラに相談しようと決めたルキは、ひとまず連絡橋へ戻ることにした。


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