連絡橋の床下に
28―29号車 連結橋
28号車側の検問所から連結橋に足を踏み入れたルキは、突然の轟音に思わず耳を塞いでしまった。
連結橋の騒音は、車両内と比べて遥かに大きい。
連結橋とは、その名の通り車両同士を連結している中間部分で、その長さはおよそ300メートルほど。
巨大なドーム型の屋根のせいで、外界を拝むことは出来ないが、ノア号の走行音がダイレクトに響いてくるため、かなり振動がある。
「連結橋まで来たのって、久しぶりだ! 相変わらず凄い振動だ!」
このガタンゴトンという音を聞くと、自分達の生きる世界は、本当に汽車の上にあるのだと実感できる。
「さて、現場は……」
アユラから渡された資料の中に、修復場所が記されていた。
「あそこだ。わかりやすいなぁ」
場所はすぐに見つかった。
先端政府が、修復現場周辺をロープで囲っていたからだ。
「よーし、気合を入れて直すぞ!」
ロープをくぐって、故障場所を確かめる。
ゆらゆらと空気の揺れる場所があった。魔力が充満している証拠だ。
「あ、ほんとだ、魔力菅が断裂してる! これは酷いなぁ……」
連結橋に張り巡らされている魔力管が、何本か断裂して、そこから魔力が漏れ出していた。このまま放置すれば、魔力が暴走して爆発すらもしかねない。
「それに蒸気管と伝達管にも破損があるじゃない。何があったんだろう……?」
魔力管だけでなく、蒸気管や伝達管まで破損しており、思った以上に酷い有様だった。
蒸気菅には乾き蒸気と呼ばれる高熱の空気が通っている。漏れ出すと人に火傷をさせる危険性があるし、最悪火事になりかねない。
伝達管はノア号内の通信手段に用いる管だ。これが途切れると通信障害が発生してしまう。
「急いで修復しないと28号車のみんなが困っちゃうね。よーし、とりあえず魔力管からどうにかしないと」
断裂したガラス線を、もう一度つながなければならない。
ルキは熱ごてとガラスチップを取り出して、愛用のゴーグルと手袋をして、修復作業を始めた。
――魔力菅の修復作業を始めて20分。
ルキは、魔力管の損傷具合に、妙な違和感を覚えていた。
「ガラス線の断裂傷が自然じゃない。あまりにも綺麗に切れすぎている」
ガラス線が損傷する原因として考えられるのは、主に二つ。
物理的な圧力によってガラスが割れるか、魔力の負荷に耐えきれず、ガラス線が割れるかだ。
魔力菅のガラス線は、複数の細い線を束ねた形状であることが一般的だ。
「圧力が原因で割れたなら、複数本あるガラス線は不揃いに割れるはず。魔力の負荷が原因なら、ガラス線は割れた後、若干溶けていることが多い。こんなに整った割れ方はしない」
今回の損傷は、そのどちらにも該当しない割れ方をしていた。
ルキの頭の中に過った考え方は一つ。
「まるで誰かが刃物で切ったみたいだ」
ガラス線は、均等にスッパリと割れていた。
誰かが意図的に切断したとしか思えぬ傷跡だったのだ。
「もしかして他のパイプも……!」
ルキはすぐさま他の管も確認した。
するとその全てに、妙な損傷を発見した。
「蒸気管には小さい穴がいくつも開いている。伝送管のガラス線も、切り口が綺麗すぎる。風化や経年劣化では絶対にこうはならない」
それと気になったのは、その損傷が、ぱっと見にはわかりにくいようにカモフラージュされていた点。
切り口は綺麗であるが、そこ以外の所には、ちょっとした傷やヒビがつけられている。
ある程度腕の立つ魔巧技師なら違和感に気づくかも知れないが、素人目には判り辛い。
「どうしてこんな壊れ方を……いや、一体誰がこんなことを、何のために……?」
ノア号への意図的な破壊行為は重罪だ。
行為の内容が悪質であれば、死刑にすらなりえるほどだ。
解せないと思いつつも、ルキの顔は微笑んでいた。
「これ全部修復か。やりごたえがあるぞ」
ルキは修復作業が大好きだ。もはや趣味ともいっていい。
普通の技師がげんなりする仕事でも、ルキにとってはご褒美だった。
修復作業を始めて、少し経った時だった。
「……あれ? なんだろう、この隙間」
蒸気管の蒸気漏れを修復するため、床の一部を剥がしたルキは、床下に小さな隙間を発見した。
「まるでわざと隙間を作っているみたいだ」
ここだけ魔力管と蒸気管の曲がり方が不自然に曲げられているように見える。
子供一人が何とか入れる程度の広さの穴は、屈んで覗いてみると、奥にも空間がある。
「この奥にも、なにかあるのかな……!?」
ルキの脳裏に浮かんだのは、幼い頃に通った秘密基地。
この奥にも外を望める秘密の車窓があるのかも知れない。
「仕事の途中だけど、ちょっとだけ入ってみよう……!」
それともう一つ、ルキには気がかりな点があった。
「もしかしたら、ここの破損と何か関係があるかもしれない」
つまりこの辺りの管の損傷は、この穴を少しでも広げるために、誰かが故意に破壊したものかも知れない。
そうだとしたら、なおさらこの奥には何か秘密がある。
そこまで考えると、ルキはもう好奇心を抑えきれなかった。
多少危険な香りもするが、それもルキの好奇心を煽るスパイスにしかならない。
ルキは、作業を止めてカンテラに火を灯し、隙間の奥に入ってみることにした。




