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この滅びゆく世界の車窓から  作者: ふっしー
第一章 幼馴染とAI少女
6/12

28号車の車掌さん

 人生初の単独業務を任されたルキは、意気揚々と鼻歌交じりで依頼現場に向かっていた。

 依頼の内容は、ノア号の修復作業。

 技術の国アイレスギア領の28号車と、食料の国フォルドニア領の29号車の間にある連結区間の一部に、損傷が見つかったというものだった。

 

魔力菅(メイジパイプ)が破裂したって書いてあったよね。最近多いなぁ」


 ノア号内には、大小様々な(パイプ)が血管のように入り組んでいる。

 特に多いのは水道管(ウォーターパイプ)蒸気管(スチームパイプ)魔力管(メイジパイプ)で、とりわけ魔力管は、ノア号の魔巧設備に必要なエネルギーの運送手段として重宝されている。

 しかし魔力菅は、魔力抵抗率の低いガラス製であることが多いため、非常に損傷しやすい。

 そのため魔力管の修復は、魔巧技師(メイジニア)にとって最もポピュラーな仕事の一つであった。


「あまり浮かれないようにしよう。初めての仕事だし、ミスしたくないもんね」


 ルキはパンパンと顔を叩いて、気を引き締めた。

 28号車先端の連結区間に繋がる出入口には、検問所が設けられている。

 検問所より先は、28号車と29号車を繋ぐ巨大な橋が架かっており、橋を超えた先の29号車はフォルドニア領だ。

 検問所の許可なく29号車に乗車することは許されず、危険物の持ち込みも制限される。

 ルキは検問所に立つ見知った中年の車掌に声を掛けた。


「ローキさん! お仕事、ご苦労様です」

「ん? おお、ルキか」


 彼の名はローキ。28-29検問所に勤める車掌だ。

 アユラの仕事に同行する際、よく顔を合わせるから、いつしか顔なじみとなっていた。


「今日はどうした?」

「連結橋で魔力菅が壊れたみたいで。その修復に来たんです」

「ああ、あの修復依頼はアユラさんに任せられたのか。ま、アユラさんより腕のいい魔巧技師なんていないから妥当だな。……ん? アユラさんは一緒じゃないのか?」

「はい。今回の修復依頼は、僕一人で行うように言われたんです」

「ほほう、ついに一人で仕事を任されるようになったのか! ルキ、やったじゃないか!」

「ありがとうございます。ちょっと緊張しますけど、ちゃんとやりきってみせますから!」

「その意気だ。アユラさんの名を背負って仕事するんだから、頑張るんだぞ。ではこちらも仕事をするとしよう」


 ローキは、コホンと咳払いをすると、改めてルキに向かって手を差し出した。


「お客様、乗車切符を拝見いたします」

「どうぞ」


 ノア号内では、乗客は常に乗車切符を持ち歩いている。切符はノア号に乗車する資格を示す身分証明書にもなっている。


「ルキ・アレックス様。ご乗車ありがとうございます。乗車切符をお返しします」

「どうもありがとう」

「次に荷物のチェックをいたします。これより先のフォルドニア領には、持ち込み禁止品が定められておりますので、その有無を確認いたします。ご了承ください。……ま、中身は工具だろうけど一応チェックするよ」

「お願いします。フォルドニアにはいかないけどね」

「決まり文句なんだ。黙って中身を見せな」


 ローキは鞄を一通り探って、工具一式を確認した後、ルキに返却した。


「ご協力ありがとうございました。通行を許可します。よい旅を」

「うん。ローキさん、ありがとう」

「現場は判りやすいようにロープで囲ってあるからな。それと修復が完了したかどうかのチェックは俺の担当になっている。あとで見に行くから、サボるんじゃないぞ?」

「サボらないよ。僕にとって初めての仕事なんだから! じゃあ行くね」

「ああ。……えっと、ルキ、ちょっといいか?」


 手を振って検問を通過しようとしたルキであるが、ローキに呼び止められた。


「どうしたの?」

「……えっと、大した話じゃないんだが……その、アユラさんは……元気か?」

「親方? うん、元気だけど」

「そ、そうか……。あ、あの、実はな……今度アユラさんを食事に誘いたいんだけど……」

「親方を!? それって、もしかしてデート!?」

「バカ、声が大きい! ……それで頼めるか?」

「うん。親方には伝えておくよ」


 よっしゃと、ローキは小さくガッツポーズをしているが、その顔が暗くなるのも時間の問題だなぁと、ルキは苦笑した。

 何せ今までに、アユラとの間を取り持ってくれという依頼を、両手両足の指を使っても数え足りないほど頼まれているからだ。

 アユラはガサツで男勝りな性格だが、その容姿や名声から、慕うファンは多い。

 魔巧技師として憧れを抱く者もいるし、一人の女性として魅力を覚える者も多いのだ。

 そうなるとデートのお誘いも多い。しかしアユラは、これまで全ての誘いを断っている。


(また断っちゃうんだろうなぁ……。ローキさん、可哀想……)


 とはいえ、ルキは少々責任を覚えていた。

 もしかしたらアユラは、自分という弟子を抱えているからこそ、頑なに彼氏を作らないのかも知れない。

 ルキにとってアユラは、親方というより母親のような存在だ。アユラもそう思っている節がある。

 自分のせいで親方は縛られているのかも知れないと思うと、心苦しさを覚える。


(僕が独り立ちしたら、親方はどうするんだろう……?)

 

 一人で仕事を任されるようになった今、アユラはどうするのだろう。

 ルキは思わず、先程もらった先端に鍵のついたネックレスを眺めた。

 もしアユラが、これでようやく自分の為だけに人生を送れるようになったのだとすれば――。


(嬉しいけど……ちょっと寂しいな……)


 相反する複雑な想いに、苦笑するルキであった。



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