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この滅びゆく世界の車窓から  作者: ふっしー
第一章 幼馴染とAI少女
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一人前の証

 今朝届いた修復依頼もすべて完了し、一息ついていたとき。


「ルキ、さっきの約束どおり、仕事を任せる」

「え? 残りのデバイス修理がご褒美なんじゃなかったの?」

「あんなものでは満足しないだろ? ちゃんとした仕事を任せる」

 

 アユラは一枚の書類を引き出しからとって、ルキに手渡した。


先端政府(トレイントップ)直々のノア号修復依頼だ」

「えっ!?」


 その資料は、先端政府のスタンプがきっちりと押された、正式な修復依頼だった。


「この依頼を一人でこなしてきな。もちろん、その報酬は全額お前のものだ」

「い、いいの? 先端政府からの仕事を僕が引き受けても」

「人手が足りないんだよ。最近の爆発事件は知っているだろ? その影響もあってか、ノア号の至る所で破損が見つかっていてね。猫の手も借りたいくらい忙しいんだ。おかげで私達は儲かっているけどな」

「でも、僕一人でだなんて……」

「お前なら大丈夫だと私が判断したんだ。お前が私に弟子入りして何年になる?」

「ちょうど4年だけど」

「その期間、お前は私が思っている以上の魔巧技師(メイジニア)に成長してくれた。そろそろ修行期間は終わりにしないと」

「お、親方、それって……!?」

「お前は今日から一人前の魔巧技師(メイジニア)だ。そしてこの仕事は魔巧技師としてのデビュー戦。しっかりやってきな!」

「……うう、親方……ありがとう! 」

「泣くんじゃないよ、これくらいで! 全く、もう……」


 なんて言いながら、アユラはルキの頭を優しく撫でていた。

 孤児であるルキは、母親の温もりを知らない。だがそれで寂しいと思ったことはなかった。

 ルキにとっては、アユラの手の暖かさこそが、母の温もりであったからだ。


「そうだ、ルキ。その依頼が終わった後でいいから、アカバネの爺さんのところへ行ってくれるかい? 今日は義足の定期メンテナンスの日だ」

「バネ爺のところ? いいの? 親方が行かなきゃ、あの爺さんはヘソを曲げるよ?」

「それはそうなんだけど、実はこれから用事があってね」

「なにがあるの?」

「こいつだよ」


 アユラがぞんざいに投げてよこしたのは、封蠟を切った封筒だった。


「誰から?」

「アイレスギア技師組合のクズ野郎から」

「オルトリー組合長から?」

「話があるから来いってさ。まったく面倒なこった」


 アイレスギア技師組合とは、魔巧技師達が結成した労働組合で、主に先端政府との交渉や末端技師への仕事の斡旋を行う組織だ。

 そこの組合長オルトリーから直々に、組合まで来るように書かれていた。


「まーた怒られちゃうんじゃないの?」

「ま、そうだろうね。どうせまた仕事の依頼は技術組合を通せって文句を言いたいんだろうな。うちは結構稼いでいるから、その仲介料を取りたいんだろう」

「大人って汚いなぁ」

「その代わり面倒事があれば組合がなんとかしてくれるし、仕事だって平等に割り振られるから食いっぱぐれはない。別に悪い組織ではないんだけどね」

「どうして親方は加入しないの?」

「個人的に今の組合長(オルトリー)が嫌いなのさ。うさんくさい男だし、何より話し方がねちっこくて気持ち悪いんだ」

「本当に個人的な理由なんだね……」

「組合長が変わったら加入を考えてもいいさ。……とまあ、そういうことでこれから組合に顔を出さないといけないんでね。アカバネの爺さんの定期メンテナンスも頼んだよ」

「うん、任せてよ」


 アユラは作業服から正装に着替え、軽く化粧を済ませる。

 ルキも工具を鞄に詰めて、仕事の準備に取りかかった。


「ルキ、いってくるよ」

「うん! いってらっしゃい」

「…………」


 出かけようとした扉を開けたアユラが、急にこちらへ振り向いた。


「ルキ、おいで」

「……ん?」


 手招きされるままにルキはアユラに近づくと、突然抱きしめられた。


「お、親方……!?」


 アユラの暖かみと匂いに安心感を覚えながらも、突然のことにうろたえる。


「よくここまで成長してくれた。お前は私の自慢の弟子さ」

「突然どうしたの……?」

「ルキ、お前は天才だ。これからは一人でなんでもやっていける。生きていける。もう四年前の、あの日のお前じゃないんだ」


 ――四年前の、あの日。

 未だ毎日夢に見る、僕の人生でもっとも最悪の日で、そしてアユラと出会った日。


「……ルキ、頑張りなよ」

「うん。僕、ちゃんとやってくるよ」


 そう返事をすると、一旦抱きしめる力が緩まった。


「これ、持って行きな」


 アユラはいつもしているネックレスを外して、ルキの手に握らせる。


「親方……?」

「こいつを肌身離さず持っていなさい。これは世界最高の魔巧技師にふさわしい代物だ」


 そのネックレスの先端には、小さな鍵がついていた。


「この鍵には秘密があってね。必ずお前を助けてくれる。大切にしな」

「……よ、よくわかんないけど……うん。大事にするよ」


 アユラは改めてルキを抱きしめ、「しっかりな」と囁くと、今度こそ名残惜しそうに離れた。


「アカバネに爺さんによろしくな」

「うん! 親方も頑張ってね!」

「ああ」


 そういうと、今まで憂いを帯びていたアユラの表情は、打って変わって笑顔になっていた。


 アユラを見送った後、ルキは握りこんでいたネックレスを眺めた。

 小さな鍵のついているネックレス。鍵にはよく分からない模様が彫られていた。


「一人前の証ってことなのかな」


 ルキはそう解釈して、そのネックレスをつけた。

 その鍵の持つ本当の意味を、今のルキは知る由もなかった。


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