天賦の才
アユラの提案により始まった、デバイス修復競争。
「あ、魔力回路が一部割れてる!」
「もう破損個所を見つけたのか?」
開始してまだ3分しか経過していないというのに、ルキは故障個所を発見していた。
そのとき、アユラはまだデバイスを分解し終えたばかりであった。
「親方は? もしかしてまだなの?」
「……うっせぇ! 競争は修復完了までだからな!」
さらにその10分後。
「修復終わり!」
「……見せてみな」
アユラの方は、ようやく破損個所を発見した段階だ。
もちろん、これでも尋常ではなく速いスピードだ。
「修復には何を使った?」
「魔力回路の欠損部分は、ガラスを溶かして繋いだよ。それと内部の金属が一部錆びていたから、部品交換しておいた。あと全体的に汚れていたから軽く研磨して光沢も出してみたよ」
「使ったガラスの色は?」
「赤。魔力の出力が高すぎたことが故障の原因だと思うから、少しだけ抵抗値を上げようと思って」
「……なるほどね」
ルキの施した修復は完璧だった。
試しに魔力石を投入してみたが、新品の時以上の出力を発揮している。
「どうかな?」
「ぐうの音も出ない。さすがは我が弟子」
ここまで完璧だと、皮肉すら見つからない。
「親方はどこまで出来たの?」
「まだ故障箇所を見つけただけだ」
「僕にも見せてよ」
「ほらよ」
「うーん……あ!」
「もう判ったのか!?」
「うん!」
アユラは先端政府公認の魔巧技師だ。アイレスギアで最も優れた魔巧技師といっても過言じゃない。
そんなアユラが苦労して見つけた故障箇所を、ルキはわずか数秒で見つけてしまった。
「ちょっと見えづらいけど、回路内のガラスに小さなヒビが入っている。ここから魔力が漏出して、思うように出力できなかったんだと思う」
「……正解」
回路中の小さな亀裂だなんて、普通は見えないし気づけない。
当然こんなに早く見つけることなんて人間業ではない。
「これなら熱ごてを当てて、ガラスを溶かすだけで大丈夫だね。僕がやっておくよ!」
ガラスを溶かすだけというが、決して簡単な作業ではない。
亀裂は小さいし、熱ごてを他の部分に当てるわけにもいかないからだ。
しかしルキは手際よく熱ごてを操り、細かい作業の連続だというのに、あっという間に修復を終えてしまった。
「親方、競争は僕の勝ちだよね?」
「参った参った! お前さんには逆立ちしたって勝てないよ!」
「何言ってるの! 親方の教え方が上手だからだよ!」
熱ごてとドライバーを握るルキの目は、期待で輝いている。
「判った判った、そんなキラキラした目でこっちを見るな。残りのデバイスも全部任せる」
「いいの!?」
「当然、動作チェックは私がする。いいね?」
「もちろん! やった! 他国のデバイスなんて滅多に見られないし、いい勉強になるよ! 親方はゆっくり休んでいてよ!」
「はいはい。私は懐中時計でも直しているから、終わったら言いな」
アユラは天才魔巧技師である。
そんなアユラが、唯一敵わないと思っているのが、弟子のルキだ。
無論、魔巧技師としての実力を総合的に判断すれば、アユラの方に軍配が上がる。
これまで築いてきたアユラの功績は、VIPクラスへの昇格を推薦されるほどのものだからだ。
だがアユラは判っていた。自分は並みの天才であることを。
真の天才とは、ルキのような天賦の才を持つ者を指す言葉だと。
(参ったね。教えることがなくなっちまったよ)




