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この滅びゆく世界の車窓から  作者: ふっしー
第一章 幼馴染とAI少女
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修復作業の報告

 連結橋に戻ったルキは、今の今まで見たことをぼんやりと思い出しながら、やりかけの修復作業を終わらせた。


「本当になんだったんだろ……」


 もしかして自分は夢でも見ていたのだろうかとも思ったが、未だ光り輝く鍵を見る度に、これは現実なのだと頬を叩かれるような気分がした。


「早く親方に相談したいな……」


 あの部屋の未知の技術に胸が高まったのは事実だが、それ以上に触れてはいけない何かを触れたという恐怖が、ルキの中に渦巻いていたからだ。


「どうだ、ルキ。作業は順調か?」


 焦る気持ちを抑えて工具を片付けていると、車掌のローキが声をかけてきた。


「ローキさん。うん、終わったよ」

「なに? 終わっただと!?」


 ローキが驚くのも無理はない。

 何せ先程ルキとローキが別れてから、まだ一時間程度しか経っていなかったからだ。


「嘘つくな。こんなに早く終わるわけがないだろう」


 ローキだって担当である以上、破損がどの程度のものかくらいは確認している。

 どれだけベテランの魔巧技師が修復しても、一時間以内に完了できる者なんて、数えるほどしかいない。

 それを今日初めて一人で仕事を任された新人がやってのけたというのだ。いくらなんでも有り得ないと高を括るのが普通だ。


「本当に終わったよ。確認をお願いしようと思っていたところなんだ」

「……よ、よし。確認してやろうじゃないか」


 ローキは、破損個所を丹念に確認し始めた。


「どこをどう直したか説明してくれ」

魔力管(メイジパイプ)のガラス線が何本か断裂していたから、同色のガラスチップを使って繋いだよ。蒸気管(スチームパイプ)の穴は塞いで、伝達管(トランスミットパイプ)も繋ぎ直した。どうかな?」

「か、完璧な修復だ……! 綺麗すぎる……!」


 ローキは開いた口が塞がらなかった。

 作業の速さに加え、修復の痕跡が異様に綺麗だったからだ。

 普通、新人の修復は、見た目はおろそかになる事が多い。

 ガラス線を繋ぎ直しても、修復場所に多少色がついていたり、つけるガラスの量が多くて膨らんでいたりと、どこを修復したか一目瞭然であるような仕上がりばかりなのだ。

 それなのに、ルキの修復は、一体どこを直したのか判らない。

 最初から破損なんて無かったかのような仕上がりにすら見えたのである。


「流石アユラさんの弟子……! 本当に新人なのかよ……!」

「うん。今日が初めてだよ。でも、店では毎日親方の作業を手伝っているから。そっちの方が難しかったよ」

「なるほどなぁ」


 アユラはアイレスギア一と噂されるほどの魔巧技師。

そんな彼女の作業を毎日見ているのだから、これくらいは朝飯前なのかもしれないと、ローキは自分を納得させた。


「よし、この作業完了書にサインを頼む」

「うん。……ねぇ、ローキさん。作業報告のついでに、気になる事があるんだけど」


 書類を受け取りながら、ルキは先程の懸念を話すことにした。


「なんだ? 改まって」

「この破損、おそらく事故じゃないよ。誰かが意図的に壊したんだと思う」

「なんだと⁉ 本当なのか⁉」

「ガラス線の断裂が、綺麗すぎたんだよ。事故で壊れるなら、もっとバラバラに割れる。ローキさんは僕の修復が綺麗って褒めてくれたけど、それは破損箇所が綺麗すぎたからなんだ。もっとバラバラに割れていたり、溶けていたりしていたら、これほど綺麗には直せなかったよ」

「そ、そうなのか……」

「蒸気管も伝達管も同じで、破損場所が綺麗だった。まるで誰かがハサミで切ったみたいにね」

「その話が本当だとしたら、一大事だぞ、これは……!」

「ノア号への故意の破壊行為は、最低でも監獄送りだもんね」

「最悪の場合、乗車拒否になる」


 人類は、ノア号に乗っているからこそ生き永らえている。ノア号は人類にとって生命線ともいえる存在だ。

 それを故意に破壊したとなれば、このノア号ではとてつもなく重い刑罰が適応される。

 それがただの悪戯でも監獄送りになることは間違いないし、最悪の場合、乗車拒否が言い渡される。


 ――乗車拒否。それは名の通り乗車を拒否され、ノア号から追放される刑罰。


 ノア号から強制下車させられた者の末路は、終末の竜に飲み込まれるのを待つだけだ。

 それはつまり死刑と同義。ノア号内の刑罰の中で、最も重い刑だ。


「……ルキ、とりあえずこのことは上に報告しておく。もしかすれば後日、調査の国(トリスレギオン)の調査団が【あかさび屋】を訪れるかも知れないが、その時には調査に協力してあげて欲しい」

「勿論だよ。はい、サイン書いたよ」


 ルキはローキから渡された書類にサインを施して、ローキに返した。


「なんにせよ、初仕事、お疲れさん。……そうだ、懐中時計の修理はどうなった? あれはウチの検問所が依頼したものなんだ」

「今朝親方と一緒が直したよ」

「そうか! なら後で取りに行きたいんだが……その、アユラさんはいるのか?」

「えっと、どうだろ。親方、ちょっと組合の用事で出ちゃったから」

「そ、そうか。でも帰ってくるかも知れないんだろ?」

「うん。いつ帰るかは聞いていないけど」

「判った。後でよらせてもらうよ。……ルキ、さっきの件、お前からもよろしくな」

「うん。ちゃんと伝えておくよ!」


 これで初仕事は一通り終わりだ。

 ルキはローキと別れ、帰宅の途につく。

 道中、ルキはずっと、胸元にしまった光り輝く鍵の事ばかり考えていた。


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