第八話 寄波
翌朝ギルドの一階に来ると、早くもフランがいて朝食を摂っていた。用心深く〈影呑み〉は小脇に抱え、よく見ると鎖で腰のベルトと繋いであった。自分もあれくらいするべきかもしれねえな、とジェイは思う。
ルイスやオルテンシアもいて、のんびりと雑談しているようだ。
「ジェイ、あのお嬢さんと組むそうじゃないか。お前たち半人前は二人で一人前というわけだな。だがお前はまだ剣を使いこなせてはいないのだろう?」
オルテンシアがそう言うが、ルイスはトマトを齧りながら「ゆっくりでいいじゃない」と暢気に言う。
「ルー、この宿無し男にギルドが部屋をあてがっているのは、ただ養うためではないのだ」
「そりゃそうだけどさ。まあ確かに、ジェイもそんなに手持ちがあるわけじゃないだろうからね、早めに使えるようになったほうがいいよ」
「当たり前だ、職務怠慢など許すまい」
このエルフの先輩の説教を聞いてジェイは閃いた。「よしきた姉さん、やってやるさ」と言い、フランのところへ向かう。
「フラン、剣の名前を思いついたぜ。オレはこの剣が開けた〈裂け目〉を抜けてこの国へ来た。ヤバい事故だったが、幸いこうして立っていることだし、昨日司祭に言われたように、これを僥倖な試練と思うことにするさ。もともと帝都を出ようって思ってたことだしな。予定より遠出する破目にはなっちまったが」
フランは食べる手を止めずに頷く。ジェイは続ける、
「こいつをこれから〈寄波〉と呼ぼう。よろしく頼むぜ、相棒。自信たっぷりだが、お手並み拝見だ」
「万事問題はない。我々が組めば最強」
二人を見ながらオルテンシアはやれやれ、という顔をしている。帝国人と半人前の小娘がどこまでもつことか、などと思っているのだろう。
まずは姉さんに、ひとつでも仕事をこなせるところを見せねえとな、とジェイは思う。
それから三日ほど経過して、くたくたになるまで〈寄波〉に魔力を篭めて休むのを繰り返して、どうにか剣の発動と身体強化の力を、エーテル補給なしで多少扱えるようになった。さっそくフランと魔物を倒しに行こうとしたところで、グレイスから〈酔漢〉討伐依頼を受けた。
どこぞの盛り場で用心棒でもすんのか? と思ったら、〈酔漢〉とは十字路に出る黒い犬の魔物のことだ、とフランが教えてくれた――ヘルハウンドだ。
帝国では中級者向けの敵だ。しぶとく、呪いの力も持っている。そして犬だけに鼻も利く。フランに、隠蔽の魔法は臭いも誤魔化せるのかい、と聞くと、「蒼穹のように澄み渡っている」との答え。相棒を信じよう、と思ったが、不安だったので一応、試しに蓋を開けた酢の瓶に魔法をかけてもらった。
そこにあるはずの瓶は消え、臭いもしない。犬の獣人であるルイスに確かめると、「問題ないよ、フランは結構すごいよ」と保証してくれた。もちろん実際に消えるわけじゃなく相手が認識できなくするだけだから、手当たり次第に魔法を放たれたりしたらヤバいけどね、とは言われたが。
ジェヴォンズから目ぼしい魔物の急所を教わり、回復薬と食料を買い、二人は門へ向かった。
門衛のギルは相変わらず暢気に、「〈酔漢〉が相手? じゃあまさに犬の散歩みたいなもんだな」と言うのだった。




