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Adventurer J/隣国への転移  作者: 澁谷晴
第六章 七番目の勇者
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第四話 大都市

 ノヴィレグナの大都市は、ジェイにとって新鮮だった。


 建物は整然としているようで、細部はごちゃごちゃと込み合っていた。陸橋、階段、市場の屋台、違法駐車の車列、立ち並ぶ塔の影。その合間を行き交う人々。空に立ち込める、エーテルの青白い蒸気と、その向こうを横切る飛行船。都市は立体的だ。馬鹿げた高さの摩天楼の合間を、道は乱雑に走る。恐ろしい数の人々と車――通勤時間はとっくに過ぎているはずなのに。


 〈硝子の月〉亭にたどり着いたときには正午だった。大通りの向こう、時計台から鐘の音がそれを知らせる。

 薄暗い店に入ると、昼どきだけあって多数の人々が席についていた。隣接するギルドの冒険者以外にも、近くの労働者たちも混じっているらしかった。ジェイは自分が空腹なのに気づき、何か食べようとカウンター席に付いた。


 ランチメニューを頼むと、シチューに炒め野菜、トーストのセットがやがて運ばれてきた。味はうまくもまずくもなくて、量が多かった。食後のコーヒーを飲んでいると、誰かが話しかけてきた。


「あんた、無事に脱出できたのだな」魔剣党の冒険者、ミルドレッドだった。「まだ拘留されていると思っていたが」


「僕は無実だったんですよ、その潔白が証明できたので自由の身というわけです」


「昨日、〈黄金の血〉の吸血鬼が来てイザベルを探していたが、彼と会ったか?」


「はい、保釈金を払ってもらい彼女も解放されました。もう街を出ているころですね」


「あの、ダリルという男もか?」


「彼はまだ捕まってますね。すぐ出てこれそうですが」


 そいつは良かった、と言いミルドレッドは紅茶を頼んだ。客たちは早々に食事を済ませて、店内はだいぶ落ち着いてきたようだ。


「そうだ、アノーリンには会ったかい? 昨日遅くまで探索を続けていたようだが」


「え? いや、分からないですね。だいぶ下の階層に潜っていたそうなので、中で一夜を過ごしたのでは」


「彼は基本的に日帰りなんだ。まあ、何かあったとは考えにくいけどな。彼は強い」


 ジェイはこの周囲の地理と、両親が所属していた劇団〈糸なき傀儡〉について尋ねた。


 ミルドレッドによれば、〈糸なき傀儡〉と魔剣党は同時期――第六時災厄の直後に、本拠地をカルドランドから帝都へ移した仲らしい。とはいえ〈糸なき傀儡〉は表向きには劇団で、表立って共同で仕事をすることはあまりなかったそうだ。


 〈傀儡〉の劇場は数十年前に閉鎖され、現在ではどこにいるのかも分からないらしい。まだ帝都で暗躍しているとか、王国へ戻り巡演を続けているとか、全員が権力者の怒りを買って暗殺されたとか噂はいくらもあるが、ミルドレッドにも真相は分からないという。


「さて、これからどうするんだいジェイ? 王国へ帰るのか?」


「そうするつもりですが、まずは旅費を稼がないと。そのために冒険者をやろうと思っています」


「転移者にはままあるパターンだな。確か〈寄波〉も――何代か前の党首も若い時分、そんな経験をしたとか。あんたの今後の活躍と無事を祈ろう。もし魔剣を見つけたら我がクランに持って来るといい、格安で鑑定しよう」


 そうしてミルドレッドは店を出て行き、ジェイも隣のギルドへ移動することにした。


   ■


 建物の中は〈硝子の月〉亭とそう変わらない雰囲気だった。昼食を終えて午後の依頼を受けるために、何人かが掲示板の前にいる。貼り出される依頼を見ようとジェイもそこへ行くと、迷宮で出会ったシティエルフ、レナーデがいた。


「おお、無事に出てこれたのかい、ジェイ。こっちで冒険者やってくわけかい」


「当面はそうしようかと思います。ベネディクトは?」


「あいつはまたどっかの迷宮に潜ってるさ。別の誰かが監視についてるよ、アタシと同じく〈呪われ〉なんてどうってことねぇってやつがさ」


「実際、彼の呪いはどういったものなんですか」


 そう問われてレナーデは、別に近くにいるだけでどうにかなるもんじゃない、と答える。そうだとしたら街中を自由に歩けるはずがないからだ。

 彼が自分の意思で体内のマナを活性化させることがトリガーで、それにはアシュワンドの僧侶たちが魔術的制限をかけている。少なくとも彼が、そこらの一般市民に呪いの力を使うことはできないらしい。そういった意思に制限をかける魔法は、今日ではほとんど使われることがないが、危険な力の持ち主は例外だ。


「彼はアシュワンドで何を? 本当に弱すぎるから追放されたというわけではないんでしょう」


「戦闘能力に問題があったわけじゃないさ。あいつは団体行動のできねぇ野郎なんだ。一人で突っ走って、片っ端から暴れまくったらしい。仲間を許容するっつぅ寛容さ、それがねぇんだ。強敵と戦いたいだけなんだよ。迷宮ん中でもそんな具合だったさ。だからこんなとこまで追いやられてんのさ。あいつの話はさておき、どういう依頼を探してんだい? あんたはカルドランドの冒険者だろ? よりどりみどりだろうさ」


 確かに貼り紙を見ると、そもそも戦闘行為が発生しそうなものが少なかった。せいぜいが、下水道の害獣駆除だ。ドブ掃除やいなくなった猫の探索、危険度の低い呪いの解呪、特定の泉の水や薬品の確保、買い物の代行なんてものもあった。いちばん稼ぎのいいのはエーテル供給搭の清掃だ。高所が平気な方、とあった。


 ジェイが考えていると、入り口から大柄なエルフの男が入ってきた。


「ん、アノーリンじゃねえかい。やっぱモトリーウォールで一泊したのかね」


 近づいてきた彼はひどく疲れた様子だ。レナーデが話しかけると、獲得物を申請してくると言って上階へ上っていった。


「なんだ? 普段ならこんなのを見つけたとか自慢しまくるくせに。中で財布でも落としたのかね。まああいつのことなんてどうでもいいか。アタシはこれから、近くの村まで行く商人の護衛だ、この辺で失礼するよ」


 護衛か、ずいぶん楽そうな気がする。恐らくはトラックの助手席で、魔物が来ないか探知していればいいだけなのだろう。

 しかし、今のところはそういった依頼はなさそうだった。ジェイは受付に行って、他に何か高額な仕事はないか尋ねることにした。

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