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Adventurer J/隣国への転移  作者: 澁谷晴
第六章 七番目の勇者
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第二話 倦厭する冒険者

「そもそも、現在の冒険者という地位が多くの問題を抱えているのは明確だよ。これはカルドランドでは顕著なのだけど、彼らが一般市民なのか軍人なのか傭兵なのか、それがあやふやなのがまずよろしくない」


 と、その少女は言った。ジェイはそれに頷く。彼もまた、新人ながら冒険者として王国で活動していたし、両親からも聞いた覚えのある話だった。


「多くの国が冒険者に対しては武器や魔術の所持を法的に緩くしている。緊急時にはもっとだし、さらに言うと帝国内で冒険者による犯罪、過失傷害・致死件数、これが他の市民に比べて三倍ほどなんだ。この数字は異常だよ。国民がなかなか彼らを受け入れられないのはもっともなことだ。


 近年はマスコミに働きかけて英雄視するようにどうにか印象操作をやってるけど、難しいね。やっぱりデレク大王のカルドランド遠征が大きかった。故国を捨てて自国を作り上げ、自分たちを見下しているっていうコンプレックスさ。帝国内じゃ、そう考えている人は政府にも多いんだ。王国みたく英雄視しすぎてもまずいけど。いずれにしても冒険者とは、文明社会に未だ残る異形、異分子だよ」


 王国では冒険者が法を乱した場合、保安官ではなく同業者が私刑同然に制裁を与えることが、ごく最近まで、あるいは現在も当たり前のように行われている。

 彼らは確かに、時として英雄だ。しかし同時に異質な存在であることは間違いなかった。


「だからアデレードと私は彼らを国ですべて抱え込んで、管理しようと考えている。あまりに長い間、冒険者はあいまいな存在だったからね。まず初めに、公表してるようにすべての迷宮を押さえる。次にすべての街道にエーテル供給塔を建造。そして今もあるけど、技能(スキル)共有を徹底する。軍とか警察みたいに、全冒険者が同一の武器を持ち、それを行使できるようにする。マナの取り込みには大きすぎる個人差があるけど、そこもエーテルの安定供給で画一化させられるわけだ。そしてエーテル網の機能ををもう一段引き上げる。


 供給塔を通じて、多くの情報を得られるようにするんだ。必要な情報を把握する能力は、マナの扱い以上に個人差が大きい。これを統一して、冒険者たち全員ができるだけ均一に冒険に臨めるようにする、つまり私たちは――」


   ■


「冒険を支配するつもりなのね?」


 イザベルは少女に対して直截に言った。相手は微笑み、答える。


「管理だよ。君たちがしていることは何だい? 文字通りの冒険――恐ろしい魔物との戦い、未開地での探索、そして不可解な法則が支配する迷宮への突入。現在のように、英雄が成し遂げた偉業の残り香に憧れて、腕自慢の素人が挑む状況。年間どれだけの人が死んでいると思う?


 これは国が管理すべき重大事だよ。ましてや災厄――文字通り世界の危機だ。それをこれまで、勇者と呼ばれる小数の人間だけに押し付け、彼らの英雄性に期待し、凱旋の暁には彼らの偉業に酔いしれるだけ。これじゃあ世界がいくつあっても足りないよ。


 彼らの影で多くの犠牲者がいた。勇者の盾となった英霊だけじゃない。犬死にした名もない死体がどれほどいるか。彼らの物語をそこで止めてはならないんだ。君はどちらかといえば英雄の側だからわからないだろうか、イザベル?」


 吸血鬼の冒険者はため息混じりに肩をすくめるのみだ。


   ■


「盗賊ギルド。君たちは冒険者以上に不可解な存在だよ。私には理解が及ばないね」


「あんたは実情を知らねえからそう言えるのさ」


 ダリルの言葉を、少女は首肯する。 


「知らないね。せいぜい本人たちから話を聞くだけだ。昔、ダガーピークのギルドの頭だった人と話したよ。アンブライアの〈錆色銀貨〉の幹部とも。もっと大物も大勢いたけど、異口同音に自分たちは必要悪だと言っていた。果たして誰が必要とするのか? 問題はそこだよ」


「ギルドのたがが外れれば、どこだって混乱に陥るだろうぜ。無秩序が溢れ出ることになる」


「それに関しては一理ある。だから、代わりを用意すればいいんだ。新しい秩序を作ればね」


「盗賊をなくすってのかい?」ダリルは一笑に付す。「ラエルじゅうの木の葉がなくなろうとも、盗っ人はいなくならねえよ」


「なくすとは言っていないよ」少女は微笑みながら言う。「管理するだけ」


   ■


 モトリーウォールの入り口までは安全な道のりだった。〈強面〉以降、魔物は現れなかったし、他の冒険者とすれ違うこともなかった。


 最後の階段に足をかけたとき、すべては消失した。

 白紙のページのような、まっさらな領域だけが周囲にあった。


 眼前には一人の少女がいた。

 ジェイはそこで、イザベルとダリルがいないのに気づいた。

 この迷宮に入ったときのように、また転移させられたのか?


 少女を見つめる。顔は判然としない。微笑を浮かべていることは分かるが、どうにもぼんやりとしている。見れば見るほど、彼女を認識できなくなる。


 彼女が自分の〈眼〉を何らかの形で妨げているのか。


「違うよ。私は存在しないから。正体もなにもないのに、それを探そうとしたら何も見えなくなるだけ」


 あなたは誰か、とジェイは聞いた。


 少女は、自分は〈倦厭する冒険者《ジェイデッド・アドヴェンチャラー》〉だと答えた。

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