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Adventurer J/隣国への転移  作者: 澁谷晴
第五章 迷宮の虜
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第四話 横倒しの街

 戒めから解き放たれはしたものの、装備も食料もない。幸い全員が水を精製する魔法が使えたので飲料水の心配はしばらくないが、さすがに空腹で脱出できるような場所ではない。


 できることなら武器も欲しかった。どちらに進めば脱出できるかは定かではなかったが、たいていの迷宮は上から下へ広がっている。三人はこの横倒しの都市を上っていくことに決めた。


 まずは集合住宅を乗り越えなければならない。垂直の廊下を登るのには、ダリルの魔法〈階梯(ステアウェイ)〉が役に立った。文字通り梯子を作り出すものだ。イザベルは短時間なら飛行することができ、斥候として先んじる。


 窓から建物の壁面に出た彼女より、念話で報告が来た。〈鐘壊し〉すなわちグリフィンがいるとのことだ。

 向こうもどうやら弱っているようで、ここで仕留めて食料にしようと考えているようだ。素手でか? と危惧するダリルだったが、数秒後には討伐したという通話、ジェイたちが辿り着くと、魔物は首を捻られ絶命していた。


 これくらいはできないと、〈黄金の血〉には入れないとイザベルは自慢げに言った。それでも彼女はクラン内では下から数えたほうが早い序列だという。


 眼前の大空は日暮れの色に染まりつつある。どうやらここはおおむね現実世界と同じく昼夜が入れ替わるらしい。場所によってはずっと真昼だったりするし、逆に明けない夜が続く迷宮もある。生活リズムが狂わなくていいな、とダリルは言った。今日はここで野営しよう、と決定した。


 シャユは鐘壊しから内臓を抜くと魔法で冷却して、集合住宅内に落ちていた包丁で手際よく解体する。


 建物内にあった廃材を集めて焚き火をし、鐘壊しの肉を焼いた。ジェイは骨を加工して武器を作れるかもしれない、と申し出て、実際に二振りの尖った短刀ができあがった。無骨で、切るのではなく力任せに突き刺すようなものだが、素手よりは心強い。


 ジェイの生い立ちを軽く話してもらったところ、彼の両親は二人とも冒険者だったそうだ。

 教わった技の中には開錠、縄抜け、偽装金貨の見破り方など、盗賊じみたものも色々と混じっていた。もしかすると正体を隠していた盗賊では、とダリルは推察するが、確信できずに指摘するのはやめておいた。ジェイが両親を誇りに思っているようだったからだ。


   ■


 夜明けとともに探索は再開された。

 連なるビルを乗り越えていくつかの区画を越えると、地盤そのものが斜めに捻じ曲がっている箇所へ辿り着いた。

 裂け目からは水が流れ落ち、滝のようになっている。イザベルは空間魔法を用いて、しばらく持つであろう量の水を確保することができた。


「この水はどこから来たんですかね、地下水?」


 ジェイの疑問にイザベルが答える。

「水道管が破損してるんでしょ」


「水道管? その水道水は誰が作り出してるんですか?」


「さあ。ここは『都市』っていう概念的なものだから、都市にあるものは存在しているって単純に考えればいいと思うわ。住民はいないけどねぇ」


「ああ、多少なりエーテルが供給されてんな」とダリル。「供給塔がどっかにあんだな。少しは魔術の足しにできる」


「帝国人はそれがなきゃ始まらないからねぇ」からかうような口調でイザベルが言う。ダリルはいいじゃねえか、と不満そうに返した。


「そりゃ街に住んでればいきなり迷宮に巻き込まれるだなんて心配はしなくてよかったんでしょうけど、それでも冒険者ならいつエーテルのない場所へ行ってもいいように……」


 そこまで喋って言葉を区切り、イザベルは真上を見上げた。それを見てダリルは尋ねる。

「どうしたんだい、魔物でも見つけたのかい?」


「いえ、これは人間です」ジェイも彼女と同じように上を見ている。「僕たち以外の探索者がいるようです」

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