第七話 冒険者の旅立ち
「そう身構えんな、あんたを討伐しろって依頼は出てねえからさ。イリーネたちの仲間や遺族が知ったら、どうなるか分かんねえけどな」
体を強張らせていたジェイはクラリッサがそう言うと息を吐き、
「良かった。私はリアのことは嫌いではなかったから」
「そいつぁどうも。なあ興味本位で聞くけどさ、その体で何人目なんだい」
「覚えている限りでは三人目。それより前は忘れたか、まだ記憶が曖昧」
シニスターの前は、アルス・ワールという魔術の町エボンウィングのエルフだった。その魔法がシニスターとして働く上では大いに役立った。この体で冒険をする上でも、きっと頼りになるだろう。
しかし、いずれはそれも忘れてしまうのかもしれない。新しい体の記憶に埋もれて――
「これからどうするんだい、ジェイ?」
クラリッサが少女の姿をしたシェイプシフターに尋ねる。
その答えは、迷いのないものだった。
「冒険を続ける。イリーネ・クラインは冒険者だった。だからこれからもそれを続けるよ」
「そうかい……ああ、昔もジェイって冒険者がいたな。そいつはあんたほど強くなかったが、いいやつだったよ……あんたの正体は誰にも言わないでおこう。俺は記憶を失った冒険者とちょっとの間一緒にいた。そいつはどこへ行ったのか分からない。そういう結末だ。じゃあな、せいぜい俺たちにあんたの殺害依頼が来ないよう、ローギルの祝福あれ」
手を振ってクラリッサは立ち去った。
その後姿を見送って、シェイプシフターは――ジェイは今後のことを考える。
シニスターの攻撃で壊れた冒険者証に書かれたとおり、この〈ジェイ〉の名を引き続き名乗っていくのもいいかもしれない。
まずはイリーネ・クラインとしてフロンティエラのギルドへ報告をしよう。仲間たちと野盗に挑んだが、敗れて自分だけが生き残った。頭目シニスターには逃げられ、自分も不慮の事故で記憶を失って帝国へ転移し、帰還した。おおむね嘘は言っていない。
その前にあの砦へ赴き、イリーネの死体を片付けなくては。まだ冒険者が立ち入っておらず彼女の死が確定していないなら、この体のままでしばらく生きていける。
そうしたらどこかへ旅立とう。冒険者の国、カルドランドか。
あるいは帝国へ戻り、帝都アウレアの群衆の中へ紛れ込んでもいいだろう。
どちらにせよ自分は――冒険者ジェイは今しばらく、冒険を続けよう。
いつか次の誰かになるまで。
帽子を被り直しジェイは歩き出した。
空に立ち込めた雲から、この国に転移したときと同じく雨が降り始める。
平原の向こうへ進む彼女の姿は、やがて霞む雨靄に紛れて見えなくなった。
第四章 完
バーナビー村保安官事務所よりクロムウェル東地区拘置所へ
以下の囚人三名を七の月十五日付けで送致する。
ジェイク・チャーチル、十九歳、男性
罪状:傷害
身体的特徴:王国人、痩せ型、金髪碧眼。
二ヶ月ほど前よりバーナビー村付近で活動していた冒険者。
同僚の冒険者に対して斬りつけ、軽症を負わせた。
本人は「怪物に見えた」と供述、しかし幻覚の魔術がかけられた痕跡は検出されず、また被害者はたびたび容疑者を嘲る発言をしており、怨恨による犯行と見られる。
白日街のダリル、二十二歳、男性
罪状:窃盗未遂
身体的特徴:コルニスタン系帝国人、長身。
バーナビー村近くの街道で高位冒険者へスリを働こうとして、現行犯で逮捕された。
被害者の名は伏せるが、巧妙に実力を隠匿しており、容疑者は「隙だらけの旅人に見え、ばれないと思った」と供述。
盗賊ギルド関係者の疑いあり。開錠の魔術を使用する可能性もあり、拘束には魔封印使用のこと。
イザベル・ド・トゥールエスト、年齢不詳、女性
罪状:魔法具による違法吸血
身体的特徴:グランクローシェ人、狼の獣人、吸血鬼(落日級)、外見年齢は十代半ば、小柄。
ダガーピークのクラン〈黄金の血〉所属の冒険者。
当初はバーナビー村近郊における殺人容疑で逮捕。
容疑者は正当防衛を主張しこれが認められるが、所持していた魔法具による吸血の痕跡が発見された。
取調べ中、容疑者は繰り返しナーリ法は不適当であることと、自らの無罪を主張。
補足:バーナビー村留置所は七の月十四日未明、不自然な陥没で使用不能となり、以上三名の送致となった。
周囲の土壌より魔術的痕跡は観測できず、目下調査中である。
第五章へ続く




