第三話 許されし者ナーリ 2
ナーリは六段階ある位階の下から三番目、宵闇級の吸血鬼だった。〈守人〉のニコラエは上から二番目の初更級であり、彼ほどになると日光が直接的に危険であるが、ナーリは不快感はあるものの、どうってことはないと言った。それでも包帯を巻いて多少は軽減しているようだ。
ソルフォールの領主から血を与えられたニコラエと違い、ナーリは非合法の〈引き込み屋〉によって吸血鬼となったらしい。彼が持つ〈緋牙〉は切った相手の血を吸い取って蓄える魔剣だ。吸血鬼には血への衝動を抑える薬の定期的服用と、歯形の登録など多くの義務があり、もちろん吸血はご法度だ。魔法でも直接噛み付いてもだめだが、ナーリが言うには魔法剣による吸引は合法らしい。本当かどうか分からないが彼はそう信じており、これが二つ名の由来となっていた。党のメンバーからは決して吸血しないと自分では言っていたが、どうにも信用しがたかった。
ジェイとナーリは屋敷の中を通過していく。内部は薄暗く、所々で緑色の蝋燭が不気味に点っている。入り口にリッチがいたのだから、内部もきっとアンデッドが潜んでいるはずだ。
「ナーリ、ヴァンスがもうじき〈六番目〉が終結すると言ってたが、その場合あんたらはどうなるんだい?」
「残る可能性が高い。貴様は党首ではないが、俺たちの核たる〈獲得者〉じゃ。貴様の行くところに我々も行こう」
「あんたらは元々何なんだ、どういう設定の団体なんだい?」
「設定と言うな、俺たちには深遠なる歴史があるんじゃからな。始まりは漂流のさなか、ダイオニシアスが魔剣を偶然手に入れたことから始まる。それに魅せられ、同じく魔剣を持つものだけのクランを作り上げた。そうして魔剣党の英雄譚が、幕を開けたというわけじゃ」
「いつごろの話なんだい、それは」
「第二次災厄の少し後じゃから、五百年ほど前となるな。初代のダイオニシアスは南方半島の戦役に派兵された帝国兵だったはずじゃ。それが災厄でめちゃくちゃになり、どうにかして切創海を越えたはいいが、野垂れ死に寸前だったらしいな」
「初代ってことは、ダイオニシアスっていうのは襲名製ってわけか?」
「そうじゃ。と言ってもそれも、行き倒れた冒険者の名前を無断で名乗った偽名じゃったはずじゃな。王国ではよくあることじゃろう」
広い一室に到達した二人の前に、動く鎧が立ちはだかった。ジェイは即座に切りかかる。鎧は剣で攻撃を受け止めるが、ジェイは〈寄波〉の力で相手の獲物を離れた場所に飛ばした。そのまま胴の一部も消し飛ばすが、さしてダメージを受けた感じがない。
「リビングアーマーは急所を狙ってもしかたない。動きを止めるために脚を狙うのが定石じゃ」
ナーリは〈緋牙〉から一瞬、蓄積していた血液を勢いよく噴出させ、鎧の脚を断った。
倒れた鎧をジェイが両断すると、ようやく動かなくなった。
その後も屋敷を進むにつれ、リビングアーマー数体と半ば壊れた動きの悪いガーゴイルが出現した。いずれもさしたる強敵ではなかったが、ナーリは血が吸えないとひどく不満げだった。
「どうやらこの場所は、魔法生物の研究所のようじゃな、最初のリッチが持ち主じゃろう。やつの死後、デプシーカに取り込まれたのじゃろうな。ジェイ、俺はここらで失礼する。別のやつをあてがうから、そいつと仲良くやっとくれ。俺はあいつと相性が悪いんでな。それに嫌な気配がこの先からする。せいぜい気をつけることじゃな」
何度目かの戦いを終えたナーリはそう言って、今来た道を戻っていった。なんとも気ままなものだ、と思いながらジェイは先に進もうとドアを開ける。
廊下が続いていると思われたその先には、広大な砂漠が広がっていた。




