第九話 襲撃
「リジェル、守人たちはアヴァを疑ってるのかい」率直にジェイが尋ねると、彼は首を振った。
「獲得者であるあんたがワルじゃないようだし、魔剣党もたぶんまっとうな、というか普通の団体だと思うわ、一応顔を見に来ただけだ。それよりこのギルドには、他にも獲得者がいるようだわな」
「誰だいそりゃ。オレはまだご同輩の気配を探れないから分かんねえけど」
「たまにその気配を隠すのがうまいやつがいるんだわ、力が強くて段階が進むほど察知しやすいんだが、巧妙に隠匿する技術を持った団体も中にはいる。その役割によるわな。たとえば俺らは災厄を取り締まる存在として生まれたから、その技術に長けたやつらが揃ってるって具合だ。同じく〈人喰い〉は人殺しの技術に長けてるやつばっかりだろ? その理屈でいくと、隠すのがうまい団体、例えば盗賊団とか――そう暗殺団とかなら、俺たちでも見つけられないかもしれないわな」
暗殺団か。そう聞いてイメージするのはまずアンブライアだ。かの地の特色といえば古くから続く暗殺者たちのギルド。
例えば、その地の暗殺者が〈六番目〉の恩恵を受ければ、強力な暗殺団が生まれるのではないか。
もしそうだとして、彼らは何をしにここにいるのか。もちろん、誰かを殺すためだろう。推測にすぎないがぞっとしない話だ。
「ま、暗殺されないように用心して――いいや、優れた暗殺者に狙われたら『用心』なんざ意味もないわな。普段どおり過ごしてくれ。邪魔したな」
リジェルは不穏な助言を残して立ち去った。ジェイはさっきから沈黙しているフランに話しかける。
「暗殺者か、なんともおっかないな。フラン、気をつけたほうがいいぜ、君の〈影呑み〉は盗賊や暗殺者たちにとって、喉から手が出るほどの代物だからさ」
彼女はジェイをじっと見て、
「それならあなただってそう。その魔剣があれば獲物に傷を付けずに殺せる。もっと技術が上がれば、剣を抜く必要すらなくなるかもしれない」
確かにそうだ。どれだけの時間がかかるか分からないが、そうなれば戦闘ではかなりの強さを誇るだろう。もっともそれほどの力を得て強くなるつもりは、あまりなかった。楽をしたいとは思うが、強者になりたいわけじゃない。まあ、この国でそうなるのは恐らく不可能に近いだろうけどな。
それからの数日間〈人喰い〉は容赦なく狂信者たちを狩り立て、大部分が殲滅された。ジェヴォンズ司祭は歓喜して小躍りする始末だった。
そんな折、〈人喰い〉に対し果たし状が届いた。彼らに〈混沌聖典〉の根源たる〈獲得者〉を名乗る男が決闘を申し込むとのことだ。そのためにザロモン隊長以下全員が街の外に出た日、事件は起こった。
城門の冒険者用通用口へトラックが横付けされ、門衛のギルが「こっちは冒険者用だ、配送なら正面へ回ってくれ」と言ったところ、運転手の男は「混沌へこの者の命を捧げます、我が神なんちゃらよ力を……」と、もはやローギルのものでもない名前を呼んで銃を乱射、同時に彼の体は引き裂かれ、三メートルほどの赤い巨人に姿を変えた。そしてトラックの荷台からも、同じ怪物が数体踊り出て門へ突撃した。
同時刻、フェルネスト市街でも赤い怪物が同時多発的に発生し、周辺の人々や建物を無差別に襲った。巨人どもは口から熱線を吐いたり馬鹿力で建物を破壊したり大暴れだ。
そのうちの数体がギルドへ近づき、大口を開けて熱線を吹こうとするが、その前に首を落とされた。
獣人の少年、ルイスだった。背後から他の冒険者たちも武器を手になだれ込む。
「平和を乱す馬鹿どもに日ごろの鬱憤をぶつけてやれ!」
「でくのぼうめ、ひねりつぶしてやるわい!」
「やれやれ……〈漆黒棟〉の研究者たちにこいつらを売りつけて小遣いでも稼ぐか」
そんな勇ましい冒険者たちの間をすり抜けるひとつの影があった。
巨人たちに目を取られ、彼女を見ているものはいない。
彼女が狙っていたターゲットがようやく姿を現した。目的を果たすときが来たのだ。
暗殺者の影は、冒険者たちが上げる土煙の中へ紛れてどこぞへと立ち去った。




