第八話 導き手
トリスタンは得物を空間魔法に限界まで詰め込む癖があるらしく、この日もギルドの入り口で〈甲板係〉――角の生えたウサギ、帝国で言うジャッカロープ――を溢れさせグレイスに小言を頂戴していた。それを見ながらリトは大笑している。そんな折、入り口から見覚えのある顔が入ってきた。
「久々だねミスター・ジョンソン、いいや今はジェイだったかな」
それは帝都で遭遇した白い髪の女だった。ジェイはフランに、彼女が見えるかと聞いた。もちろんだという答え、どうやら〈導き手〉が実体化するところまで進行したようだ。
「なあ、あんたは〈六番目〉が生み出した存在だろ? 何が目的なんだい。まさかこの国を混乱させるなんつうイカれた手合いじゃねえよな? オレも巻き添えを食うのはご免だぞ」
ジェイが言うと女はまあまあ、と宥め、自分たちの性質はそんなヤバいもんじゃないさ、と言った。
「なんならニコラエやシャユの取調べを受けたってあたしはかまわないさ。あたしら〈魔剣党〉は純粋に人類の刃、正当なる冒険者の集いだ。あんたがそろそろ渦中に巻き込まれそうだから、新しい力をプレゼントしようってだけさ。あんたが死んだらあたしも党首ダイオニシアスも消えちまうからね」
ダイオニシアス、そいつが自分に力を与えた〈第六次災厄〉の分体か。なんだって災厄はそんなことをしやがる? ジェイに問いに、意味ありげに女は答える、
「ジェヴォンズ司祭から聞いただろ、試練によって人は成長する。混沌が英雄を育てるのさ。六回目ともなると少しばかり趣向を変えて、同時多発的出血大サービスってわけさ。まあ迷惑なのは間違いないけどね、だけどこれで人類はいくつもの新しい力を獲得できるはずだ。世界をかき回し、かき乱し、混沌を作り出す。あんたらが災厄と呼んでいる代物の本質はそれさ。
ああ、そういえばまだ名乗ってなかったかな。あたしはアヴァ・マコネル、北の地トランサルムから来た冒険者さ」
もちろん彼女は災厄によって生み出された存在だ。北の公国のどこを探しても、アヴァ・マコネルなる人物を見つけることはできないだろう。しかしひとまずジェイは、彼女を人間として、導き手たる先輩冒険者として扱うことにした。
「アヴァ、あなたにひとつ言っておきますが、ジェイはすでにわたしと組んでいるのです」フランが涼やかな声で話し始めた。「我らの結束は強固、その牙城を崩すことは――」
「分かっているさ、お邪魔するつもりはないよ。あたしはあんたたちに長生きしてほしいってだけさ。問題はないと思うけどね、なにしろフラン、あんたも――」
アヴァが言いかけたとき、〈災厄の守人〉の隊員が入ってきた。ニコラエやシャユとも違う、初めて見る人物だ。
これまでに見たことがないほど背が高く、屈強であり、歴戦の戦士のようだ。銀の髪と褐色の肌を持ち瞳は金色と、コルニスタン人の特徴を備えている。
帝国から東へ行くほど魔物や怪異の危険度は上がると一般的には言われている。今日では脅威度もかつてほどではないが、それでも東の地には未だに魔界からの門が頻繁に開き、カルドランドよりもさらに危険で、それに比例して冒険者たちも精強だ。
男はアヴァのところへ来てじろりと彼女を見て、「ジェイ、話に聞いていたあんたの『上司』が彼女か?」と尋ねた。どうやら〈守人〉として、あるいは同じ災厄の恩恵を得たものとして、彼は〈導き手〉気配を明確に感じ取ったらしい。
「そうだ、アヴァ・マコネルっていうらしい。オレが〈六番目〉から得た事象――〈魔剣党〉というそうだが――その一員さ。あくまで冒険者として使命を果たしたいと言っている。これはオレの勘だけど、彼女は危険な人物じゃないと思う、そうだろアヴァ」
もちろんだよ、とアヴァは答え、「信用できないならしばらく監視を付けてもいいさ、守人の旦那」
「たまに顔を見るだけで十分だわな。俺はリジェル・ジタン。あんたが言葉通りの存在なら、使命を果たしてくれよ、アヴァ」
「『糧には剣を、勝利には美酒を』」
そう言ってアヴァは一礼して、ギルドから出て行った。




