第七話 ビンゴ
フランが、自分たちの実力は明確なのでさらに格上の相手に挑戦したいと言い出した。ジェイは一抹の不安はあったものの、確かにこれまで敵にフランの隠蔽がばれたことはないし、報酬も増えるし悪くないと考え、そうすることにした。ギルドではこのところ増加している〈ビンゴ〉の討伐に余念がなく、それに加わりたいとのことだった。
さすがにバジリスクを相手取るとなり、ジェイは緊張した。オルテンシアはそんなことでビビっているとは嘴が黄色いだのなんだの、色々と言ってきたが、石にされたら復元してやると彼女が保障したので、森へ行くことにした。
途中、戦闘中あるいは虐殺中の〈人喰い〉の面々と出会った。〈混沌聖典〉はこの前の討伐によってザロモン以下隊員たちを宿敵と捉え、執拗に襲撃しているようだが散々な結果だった。今日もひたすらに蹂躙されている。
隊員全員、とくにザロモンは動きが人間離れしているし、ほんの少し手を振っただけで相手が急所から血を噴き出してぶっ倒れる。いや、それならまだましで、ザロモンの得物は小ぶりな剣であるにもかかわらず、かすっただけで斬られたのではなく叩き潰されたかのように破壊され、〈混沌聖典〉の教徒たちは逃亡を余儀なくされた。もちろんザロモンたちは彼らを追うつもりのようだったが、しばらく待ってから悠々と追撃を始めた。どうやらハンデをつけることによって「狩り」を楽しむつもりらしかった。
それを遠巻きに見ながら煙草をふかしている若い男がいた。片手には〈ビンゴ〉の首を持っている――両目は既に摘出してあるようだ。彼はフランとジェイを見つけて近寄ってきた。
「よお、ジェイとフラン……で合ってるか?」
ジェイは合っていると答えた。ギルドでたまに見た顔だ。首をぶった切ったのかい、と聞くと、
「そんなことするわけないだろ……〈ビンゴ〉の血は魔法薬の材料になるからな、なるべく傷つけないのは鉄則だ。俺はあのお姉さんたちと違って刃傷沙汰はごめんだし」彼は森に分け入っていく〈人喰い〉の面々を見ながら言った。「こいつは空間魔法だよ。詰め込めるだけ突っ込んだら、見苦しいことに首だけはみ出しちまった。ギルにはなんか言われるだろうが、処理はちゃんとしてるから問題ないだろ……ああ、直接話すのは初めてだったか……俺はトリスタン、エボンウィングのトリスタンだ」
エボンウィングは確か魔術の都だ。最初に建造された研究所の翼棟が黒く塗られていたからその名前が付いた。時間が経つにつれその周囲に魔術師たちが集い、街となった。トリスタンもそこ出身の魔術師なのだろう。
「しかしあれだ、あんたらはまずい時期にこっちに来たもんだよ。〈混沌聖典〉に〈人喰い〉、さらにはあの〈災厄の守人〉……だったか、頼もしいことだけど、この先さらにヤバい連中が続々とどこからか現れて争う、その渦中に俺たちはいるんだ。俺は守人の魔人たちや、オルテンシアとかルイスみたいな実力もないし、帝国にでも避難したほうがいいかも知れないな……いや、〈人喰い〉連中は向こうの出だったか。どこも安全じゃないな」
トリスタンの危惧はもっともだった。フランは「己を信ずれば恐れることはありません」などと堂々としているが、確かにこの先どうなるか分かったものじゃない。
「まあ、起こってもないことに脅えるのは空が落ちてくるんじゃないかってビビるようなもんだからな……心配してもしかたがないだろうけど。あんたの前で言うことじゃないだろうが、俺は〈六番目〉の力なんていらないから平穏に生きたいね」
煙草を消して、これから仕事だっていうのに時間取らせてすまんな、と告げてトリスタンは街へ帰って行った。
彼はこれまで出会ったカルドランド人の中でも帝国人に近いようにジェイは感じたが、それをフランに告げると、「彼も紛れもなく王国の冒険者。平穏に生きたいといいつつ、冒険をやめるという選択肢はないはず」と答えた。
その通りで、トリスタンはこの後もぶつくさ言いながら平常通り魔物を狩り続け、毎回空間からはみ出るまで収めて帰還した。
ジェイとフランはというと、おっかなびっくりながら〈ビンゴ〉を狩るのに成功した。
ジェイはどうにか血を流させずに相手を倒す方法を模索し、オレンジを使って練習した結果、獲物の内部だけを刃で抉る技術を獲得した。〈ビンゴ〉の脊髄だけを綺麗に抜き取れるまでに、四ダースものオレンジが犠牲になった。




