第四話 混沌聖典
シャユとニコラエは謝礼としていくらかの金を置き、先に密会場を出た。同時に〈災厄への備え〉と書かれた冊子を手渡し、何かあったらギルドに置いた通信具で知らせて欲しいとのことだった。現在、街じゅうのギルドで別の守人たちが説明と聴取を行っているらしい。
ジェイがギルドへ戻ると、支部長と冒険者たちが神妙な、あるいは面倒臭そうな顔をして集っている。
「すさまじく面倒なことになったな。あの〈災厄の守人〉というやつらも信用していいか怪しいものだが」と、オルテンシアがぼやいている。
支部長によって情報の整理がなされた。彼は〈災厄への備え〉を掲示している。掲示板や入り口近くにも、内容を要約したポスターが貼られていた。内容は以下のようなものだった。
【世界を脅かす災厄、その最新のものが出現した。しかしパニックに陥ってはならない。すぐさま、世界の破滅をもたらす性質のものではないからだ。此度の〈第六次災厄〉はこれまでのものとは違い、隠れ潜み、力を蓄えている。それは一個人に、以下のような段階を経て恐るべき力を与えるものだ。
一:〈六番目〉に選ばれた者の所に〈導き手〉という架空の存在が出現し力を与える。
二:〈導き手〉が実体化し、それ以外にも〈随伴者〉が現れる。彼らは架空の団体に所属している。その長はさまざまな姿を獲得した〈六番目〉の分体である。
三:〈六番目〉が姿を現す。〈随伴者〉たちが実体化し現実に関与しはじめる。
という三つの段階を経て〈獲得者〉の力は増していく。
我々〈災厄の守人〉は反社会的架空団体を取り締まるために存在している。
いきなり謎の力を得た人物に注意すべし。また、あなたが災厄の〈導き手〉に接触したのなら、すぐに最寄の警察・軍・冒険者ギルドに申し出よ】
ジェイも〈獲得者〉ということで、オルテンシアなどは「拘束すべきではないか」と嘯いたが、ギルドに協力的だしまだ第一段階なので脅威でもないというので、これまで通りの活動を許された。
しばらくしてフランがギルドへ入ってきた。ジェイが〈六番目〉のことを話すと、彼女は黙って聞き、「いずれ災厄は去る」とだけ呟いた。
そうして脅威の存在が認識されたが、しばらくは変わらぬ日常が続いた。変化といえば、フェルネスト領主・都市当局が〈災厄の守人〉への協力を示し、反社会的架空団体を警戒、並びに〈六番目〉の発生源たる〈門〉の探索、収束へ尽力するというものだった。
黒い軍服の守人を見かけることもあった。シャユとは別の魔人や大柄な獣人、ジェイでも感じ取れるほど強力なマナを内包したエルフなど、極めて精強な兵士たちだった。
次に変化が起きたのは、二週間ほどが経過してからだ。
王都キングスホールドにて、武装蜂起が勃発。ラジオ局が一時期占拠された。
幸い短時間で鎮圧されたものの犠牲者の死体は煙のように消え、テロリストたちが流した放送は王国に新たな厄介ごとの到来を予感させた。
「我らは〈混沌聖典〉。〈第六の使途〉より御業を賜りし、ローギルの真なるしもべ。混沌を求むる者は我らと共に歩まん……」




