第二話 来訪者
ジェイのもとに奇妙な二人の来訪者があったのは、大狼を討伐して数日後のことだった。
狼から剥ぎ取った毛皮はほとんどがオルテンシアやルイスのものとなった。ジェイも功労者であるがゆえに、一部を手にしたが、すぐに売って借金返済に当てた。
その日も畑に出現するピーマン頭をざくざくと討伐し、図書館で調べ物をするというフランと別れ酒場で飲んでいると、異様な二人組が立ち入ってきた。
片方は頭に二つの角を生やした少女――魔人だ。黒い軍服を着ているが、ギル達王国の兵士や、帝国のそれとも違うものだ。彼女の連れも同時に目に入り、ジェイはぎょっとする。それは人のかたちはしていたが、全身が黒い影に覆われ、姿を伺うことはできなかった。
二人は一直線にこちらへ近づいてきた。魔人の少女のほうが口を開いた。
「失礼、ジェイという名の冒険者はそなたか?」
そうだ、と返す。魔人は異常なまでに魔力・身体能力ともに高く、獣人すら凌駕する。彼らはこちらの存在ではなく、〈向こう側〉よりの来訪者だ。ごく幸運なことに、ほとんどが友好的で、強力な冒険者として活躍している。
「貴公に少しばかり尋ねたいことがあるのだ」闇に包まれたほうの来訪者が、低くくぐもった声で言った。「ここではなんだ、静かに話せる場所へ行こうではないか」
突然の申し出に多少ためらったものの、彼らが酒場の勘定を支払ってくれたのもあって、ジェイは言われるがままに追従した。
南十番街の大通りを少しばかり進んで路地へ入り、古めかしい石造りの建物にたどり着くと、入り口にいた大柄な男へ、影に包まれた人物がいくらかの金を握らせ、中に入った。
個室に入ると、魔人の少女が何らかの魔法を使った。恐らくは施錠と、音が漏れないようにするためのものだろうとジェイは察する。
「これで邪魔は入らぬ。ここはとあるギルドの運営する集会場じゃ。いや、〈密会場〉と呼ぶべきかな。さて、早速本題に入ろうか。今回そなたに聞きたいのは〈六番目〉についてじゃ」
少女はドヴェルの使うような、フィルベルグの訛りがあった。しかも貴族が用いるような、格調高いものに聞こえた。
「その前に自己紹介をしておくべきであろうな。我が輩はニコラエ、〈闇纏い〉などと呼ばれることもあるな。まあ、ここではこれは必要あるまい、顔を見せぬのも失礼であるしな」
影の男のほうは南方の訛りがあるようだ。もしやと思い、彼を包んでいた闇が消えて素顔が見え、確信する。青白い顔と真っ赤な目、肥大化した犬歯。吸血鬼だ。ソルフォールの出身者らしい。
「我が輩は初更級でな、日光を浴びれば重篤な火傷を負う難儀な身よ。そしてこちらはシャユ」
優雅な礼をして、少女は話し始める。
「そなたが遭遇したホーニゴールドという追いはぎ、あやつは〈六番目〉によって分不相応な能力を与えられておった。人狼の力は、己の弱さを隠すためにいたずらに得てよいものではないのじゃ。早々に帝国へ帰るべきじゃったが、あのオルテンシアというエルフ、ならびにこの都市への怒りが彼奴を留まらせた。まことに愚かなことじゃな」
この二人はどこぞの捜査機関の人間だろうか。しかし、いくつか疑問がある。世界の脅威たる災厄が、なぜケチな帝国人の悪党に力を与えたかだ。そして、人狼の力は確かに恐るべきものだが、災厄が齎すものとしては不足に感じる。ジェイが疑問を口にすると、ニコラエが答えてくれた。
「それがまさに、〈六番目〉の厄介な所よ。彼奴は矮小な者をも好んでいるのだ。それらが力を得て、暴走するさまを見るのがな。無論弱きものだけを相手取っているわけでもないが。つまるところやつは、ひどい気まぐれ屋なのだ」
「そなたも英雄譚、冒険小説、そういった類を読んだことがあるじゃろう? 何の変哲もない平凡な人間が、ある日力を得て物語を成す。その〈力〉を与えるのが〈六番目〉なのじゃ」
「この災厄はおおむね人の姿で現れる。そして、何らかの集団を率いて、誰かに力を齎す。それはその対象にのみ認識できる虚構だ――初めのうちはな。しかし力だけは本物であるし、時が満ちればやがて現実に姿を現すであろう。悪しき心の持ち主が選ばれたのなら、こたびの事件よりもさらに恐ろしい結末を迎えるだろう。
さてジェイ、何か聞き覚えはないか? 帝国の平凡な一冒険者。ある日魔剣を手に入れ、英雄たちが築いた地へ突然転移する。貴公の置かれた状況は、どうにも不自然ではないか? あるいはそのような偶然も、この世界には起こりうるのだろう。しかし、我々は貴公より察知したのだ。災厄の残り香をな」
ニコラエはじっと、赤い瞳でジェイを見据えて言った。
「オレもまた、その〈六番目〉によって力を与えられたってわけですかい?」
思わずジェイは、腰の魔剣に目を落とした。




