第十五話 報酬
カルドランドから切創海を挟んだ南方半島。五百年ほど前に、長く戦乱の続くこの地に魔界が流れ込み、六つの災厄が姿を現した。
かの地を蹂躙した脅威は六人の英雄によって滅ぼされ、彼らは六つの王国の始祖となった。
その中でも最も東に位置するアンブライア。コルニスタンに近いがゆえに、帝国と東の文化が混在する特異な地だ。
この国は恐るべき暗殺者たちで知られる。王侯ですら彼らの刃に倒れ、おおよそすべての都市の裏側にはアンブライアの密偵が潜んでいると囁かれている。
首都トゥバンの地下深い暗がりで、ローブを纏った人物が水を張った器を前にしている。古めかしい通信用の魔法具だ。
『計画通りフェルネストに潜り込みました。早速〈六番目〉の手の者が現れました。これは小物でしたが』水面に映し出された人物が、厳かに此度の事件の報告を行っている。『引き続き潜入を続けます、祭儀長。獲物が姿を現すまで』
「ああ、〈朧〉、主上もお前には期待している」ローブの人物が柔らかな声で応える。「必ずやその任務を果たすのだ。そなたに、我が神の祝福があらんことを」
朧と呼ばれた人物は自らの神へ祈り、水盤から姿を消す。ローブ姿の祭儀長も影の中に消え、静寂がすべてを覆った。
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冒険者ギルドは化け物狼への勝利に沸き立っていた。しかしジェイの表情は暗い。
「なんてこった……悲惨な人生を歩むことになりそうだ。こっからしばらくの間は」
原因は帝都から送られてきた請求書だった。ジェイが転移する原因となった、〈寄波〉の暴走。その瞬間、魔剣は周囲のエーテル供給塔から無理やり魔力を掠め取り、広範囲で魔導機関の停止・機能障害が発生。そのための賠償金がジェイに課せられた。
「こいつぁしばらく、こっちで借金返済のための労働に精を出すしかねえみたいさ」
「我々が力を合わせればすぐにでも完済できる」隣の少女は静かな、しかし自信に溢れた口調で言った。「もちろん報酬は山分けだけれど」
ジェイは腹をくくろうとしたが、長い返済生活を考えるとため息が出るばかりだった。杯を傾けて頼みの綱である、相棒と剣に目をやる。
この強い助力があれば、時間はかかるが借金はどうにかなりそうだ。問題は――第六次災厄。ただでさえ面倒なのにこっから先、どうにも厄介ごとに巻き込まれそうな気がするぞ。いいや、すでにあの人狼みたく、何かが近くに潜んでいるかもしれない……
結局ホーニゴールドへ人狼の力を与えたのは誰か、そして牢で彼が暴走した理由は何か、明らかにならないままだった。
牢屋に誰かが立ち入った痕跡は皆無だったために、遅効性の魔法によって、意に反して怪物化させられたのだという推察がなされた。記憶を読み取る魔法も、短期間だけ復活させる魔法も、ホーニゴールドには効かなかった。人為的なものと思われる不気味なマナが、彼の魂魄を汚してしまっているらしかった。
今はひとまず、酔っ払い、そして眠ろう。明日からの労働のために休まなくては。
そうして今一度ジェイは杯を傾けるのだった。
第一章 完




