第十四話 先触れ
戦果を話すオルテンシアはあの程度の帝国野郎ごとき物の数ではない、といった態度を崩さなかったが、だいぶ爽快な顔をしていた。ギルドでジェイやフランも交えて酒盛りをしていると、表から馬鹿でかい音が聞こえた。通りに出ると、留置所の壁がぶち破られていた。
そしてその犯人、大型トラック並みのサイズの化け物狼がそこにいた。保安官や近くの冒険者たちが魔法や銃で応戦しているが、一向に通用している様子はない。
狼は建物や街路樹、そして周囲の人間を手当たり次第に吹き飛ばし大暴れしている。
吹っ飛ばされつつ防護魔法でどうにか無傷を保っていたマイルズがジェイたちに向かって叫ぶ、「ヤツには魔法が利かないぞ! あの毛が馬鹿に硬くて剣も通らない、とにかく手当たり次第狙え! 目玉に当たるかも知れないからな!」
ルイスとオルテンシアも魔法をぶっ放すが体毛に弾かれてしまう。しかも、眼球に火の玉が当たっても相手は平然としていた。
「なるほどね、あの毛皮はいい素材になりそうだ。引っぺがすのに一苦労だろうけど。どうやら毛や目玉、粘膜を含めて障壁が張られているようだ」
「ルー、どこか一箇所でも傷つけろ、そうしたら私がやつに引導を渡してやる」
「やってみよう。ジェイとフランは中に戻って……」
言いかけてルイスは二人が消えているのに気づいた。
「姉さん、あいつを挑発してよ。こっちに注意が向けば僕がどうにかする。そこで新入りの二人が穴を開けてくれるはずだ。彼らに花を持たせてあげよう」
「ふん、お安い御用だ」
そうして彼女の口から飛び出たのはあらゆる放送・出版物に出すことのできない数々の罵声・蔑称。大狼の目が彼女を捕らえ、大口を開けて飛び掛ってくる。
屋根の上から飛び降りた影があった。ルイスだ。魔力の篭った拳を狼の頭に打ち付ける。
本来ならばたちどころに昏倒、最悪脳に深甚なダメージを負うはずの一撃だが、怪物は少しばかりふらつくに留まった。
しかし、その隙に前足にざっくりと、青い光が亀裂を穿つ――〈寄波〉だ。不可視のジェイとフランが一撃を与えたのだ。
「ぼさっとするな、姿が消えても、そこにいることには変わりはないんだ。こいつが暴れれば吹っ飛ばされてしまうぞ。新人ども、とっとと離れろ」
言いながらオルテンシアは、危険な魔法を完成させていた。毒だ。
〈中つ庭〉には最悪な植物がいくつかある。オルテンシアはそのうちのいくつかを、魔術的に抽出し武器として用いている。
今回選択したのはある種の蔓植物が持つ強烈な麻痺毒だ。障壁ごと肉が抉り取られている傷口からそれを流し込むと、たちどころに怪物はふらつき倒れ、そのまま動かなくなった。
「手間をかけさせてくれたな、魔界じみたクソ帝国野郎め。カハルジャの慈悲は期待しないことだな……」
オルテンシアは大狼に近づき、そして何かを聞いた。鼻を鳴らしてギルドへと戻っていく彼女の背中に、ルイスが問いかける。
「姉さんそいつ、最期に何か言ってた?」
「たわ言だよ。〈六番目〉が私たちを……どうこうするとかな」
功労者たるジェイとフランが姿を現し、ルイスに〈六番目〉とは何かと問いかける。
「……一番目はこの国を覆った。二番目は南の半島。三番目はコルニスタンの北。四番目は帝国の南端。五番目はフィルベルグ。そして次はどこか。みんなの悩みさ。救いはそれに対応する英雄が、いつだって現れることさ。次もそうなるだろうとは言われてるけど、そんな保障はどこにもないんだけどね」
ジェイにも分かった。この世界を過去に五度襲った〈災厄〉。追いはぎホーニゴールドはその最新の〈第六次災厄〉が近く発生すること、あるいは既に存在していることを示唆したのだ。




