第十二話 強奪
オルテンシアは単独で街の外に出た。最後の被害者が襲われながらも犯人に探知の印を付けていたために、魔石での追跡が可能となっていた。
果たして夕刻時、街からだいぶ離れた遺跡の中でホーニゴールドを発見した。彼はオルテンシアが来るのを知っていたかのように悠々と待ち構えていた。
「また会ったな、帝国野郎。犯罪者となっていたとは都合がいい。心置きなく貴様を叩きのめせるというものだ」
「来やがったかオルテンシア。てめえが来るっつう確信はなかったが、まあ誰でも良かったさ。あの街の馬鹿どもに俺の力を味わわせてやれりゃあな」にやにやと笑いながら追いはぎと化した帝国人は言う。「だが、てめえに制裁を加えられるのは最高の気分だな、高慢な阿呆め」
オルテンシアは無言で魔力の槍を作り上げ放った。脚を狙い、手っ取り早く戦闘不能に追い込むつもりだったが、それは叶わなかった。
ホーニゴールドは話に聞いていたとおり、人とは思えぬ速さで遺跡の柱の上へ跳躍したのだ。
「なるほど、多少変化があったようだな? 蜘蛛のケツにも齧りつけそうな心境か? 無能が多少動けるようになって?」
「俺を無能と呼ぶんじゃねえ阿婆擦れが!」
激昂するホーニゴールドの口は耳まで裂け、肥大した犬歯が覗いている。耳はルイスのそれと似て尖り、黒っぽい獣毛が顔を覆った。
「なるほど〈貨物車〉か、二ヶ月という準備期間も納得だ。呪いが馴染むまで待ったはいいが、今夜は満月じゃないぞ。なんなら出直そうか、帝国野郎?」
「そのすまし顔が気に要らねえんだよ、尖り耳!」
「今では、お前もそうじゃないか」
全身をバネのようにしならせ、激昂した貨物車が爪を振るって飛び掛る。オルテンシアの頬に幾筋かの切り傷が開いた。
何度かの攻撃をかわしながらエルフの冒険者は、呆れた口調でつまらなそうに言う。
「お前をこうして見るまでは、どんなひどい目に合わせてやろうかと思っていたが」
幾度目かの交錯。響いた悲鳴は人狼のものだった。オルテンシアの手に、剥ぎ取った爪が何本か血まみれで握られていた。
「ルーには到底及ばない。新入りどもですら、自分で仕事をこなしているぞ、人様の財産や命を奪うなどという恥知らずな罪に手を染めたりせずにな。なんとも無力感を覚えるな、お前には。馬鹿は予想を下回る行動に出るものだ、全く。お前は追いはぎに鞍替えしたのだったな? なら、私はお前から逆に奪ってやろう、そのろくでもない武器をな」
そこから先は戦いというより強奪だった。オルテンシアは強化魔法を不必要なほど重ねがけし、人狼を上回る速さと力で相手の牙と爪を抜き取り、悶え苦しむホーニゴールドを拘束し、悠々と帰還した。




