背後の御門
あれから、惟光さんに教えてもらった「思考を止める」テクニックを少しずつ練習している。
ふと息抜きをしようと思い立ち、休憩時間に「ようつべ」という動画サイトを開いた。
おすすめに猫のショート動画が出てきたので見てみると、仔猫が一回り大きな大人の猫にがっしりと抱きつかれ、全身をぺろぺろと舐め回されている。
子猫はイヤイヤと抵抗しながらも、撮影している飼い主の方を向いて「見てないでさっさと助けてや」と言わんばかりの視線を送っていた。
その姿があまりにも可愛くて、私はすっかり気を緩めてしまった。
(良いなあ〜。この仔猫が羨ましい。こんな風にじゃれあえるって素敵♡)
そう心の中でつぶやいた、まさにその瞬間だった。 背後からガシッと力強く抱きすくめられ、私の頬に何かがすりすりと擦り寄ってきた。
「きゃあぁぁああ!」
思わず悲鳴を上げてしまう。 その叫び声を聞きつけた御影様が、慌てて駆け寄ってきた。
「ハザマ? お前、何やってんの!?」
背後の人物――ハザマ様を引き剥がそうと、御影様が止めに入る。 ハザマ様は悪びれる様子もなく言った。
「いや、初音が動画の仔猫を羨ましいなんて思ってたから、同じ事をしてやろうと思って……」
「そうだったのか?」
御影様は心底呆れたように
「俺には、ジブリのかぐや姫が御門に後ろから抱きつかれて逃げてるところにしか見えねえぜ? やめてやれよ、かわいそうに」
「…………」
痛いところを突かれたのか、ハザマ様はムッとして黙り込んだ。
御影様はぶつぶつとぼやきながら、
「しかし、ストーカーが自分のことをストーカーだと自覚してないってのは本当だな。間近で見て実感したわ」
そう言い捨てて去っていく御影様の背中を、私はただ呆然と見送るしかなかった。




