持てるものの無自覚な凶器
その後。ハザマ様のお部屋で一緒に昼食を食べながら、彼は事件に至るまでの裏側を話してくれた。
「御影が陸と結界を張る準備に行ったんだ。出かける前に、奴から頼まれていたんだよ。小夏を見張って初音を守るように、とな」
「御影様は、誰が指輪を盗んだかご存知だったんですね?」
「ああ。監視してたら、お前ら二人とも『草むしり検定でも受けるのか?』というぐらい必死に草をむしってただろ? 部屋から眺めていたら、小夏が水仙をむしりだして……すぐに止めようかと思ったんだ。しかし、決定的瞬間がないと証拠にならないから、機会を窺っていたんだ」
(御影様、裏で私のことを心配してくれてたんだ。嬉しい……) 私はネックレスにした指輪をぎゅっと握りしめた。心がぽかぽかと温かくなる。
その様子を見ていたハザマ様が、少し真面目な顔つきになった。
「前々から言おうと思ってたが、初音は『自分が妬まれやすいこと』を自覚しておいた方がいいぞ。御影と婚約してるとかそういうことではなくて……愛されている者が無自覚に持つ自信への嫉妬、というか」
彼は少し間を置いて、静かに続けた。
「ごく普通の人間なら、見ているとわかるんだよ。『ああ、この子は両親や周りから愛されていて、ゆったりとした余裕があるな』……と伝わってくる」
「そうなんですか?」
ハザマ様は呆れたように息を吐き出した。
「…………幸せな奴だなぁ。世間の人間は、もっといろんなものを渇望しているもんなんだ。……当初、なぜ使用人がお前に嫌味を言っていたかというと、お前がその『愛されて幸せそうな雰囲気』を纏っていたからだ」
私は箸を唇に当てて俯いた。
「……自分の境遇に感謝します」
「私でさえ、お前にイライラすることがある」
思いがけない言葉に、私は驚いて顔を上げた。
「私よりも沢山、いろんなものを持っているあなたでもですか?」
ハザマ様はひどく困ったような、切ない顔をして言った。
「初音が美麗を連れてくる度に思ったよ。『あぁ、コイツは私が居なくても、他に代わりがいるから余裕なんだな。湖西や御影とかが愛してくれるから、こんな事ができるんだ』と。……それが、私が初音を諦めた理由だ」




