食べられなかったニラ玉
陸様からメールが届いた。すでにこちらの近くまで着いているが、準備をしてから伺う、と書かれている。 何の準備かはわからないけれど、慎重に事を進めているということだけはわかる。
小夏さんが手伝ってくれたお陰で、庭や敷地全体の雑草もほぼなくなった。
そういえばこの時期、ハザマ様のお部屋から見える場所に水仙が咲くはずなんだけど……あれ? 小夏さんが一緒に抜いちゃったのかな? 今年は綺麗な水仙が見られないのは、ちょっと残念だなぁ。
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お昼は食堂で賄いが出る。
休憩室の私の席に配膳されたものを見ると、ニラ玉だった。 とろりとした餡が掛かっていて美味しそう〜! と、私が一口食べようとした瞬間。
横からすっと手が伸びてきて、ハザマ様に無言でお皿を引き抜かれた。
「あ、ハザマ様。それ、私のです」
「…………誰だ、これを作った奴は。冗談でも許さんぞ」
ハザマ様の底冷えするような怒った声と顔を見て、お手伝いさん達がビクッと震え上がっている。 やがて、一人のお手伝いさんが震える指で小夏さんを指さした。
ハザマ様は小夏さんにツカツカと近寄り、
「これ、お前が食べてみろ」と、ニラ玉の皿を突き出した。
小夏さんは顔面を蒼白にし、小刻みに震えながら首を激しく振る。
「雑草取りを手伝う風に見せかけて、庭の水仙を採っていただろう? ……致死量の毒があるそれをニラに混ぜて、初音に食べさせようとして」
私は絶句した。
あんなに親しく話しかけてくれたのに、水仙を採るため?
それを私に食べさせて、殺そうとしたの?
ハザマ様は惟光さんを呼び、小夏さんをお屋敷の『反省室』と呼ばれる一角へと連行させた。
そこですべて理解した。
指輪を盗んだのも小夏さんだったのだ。彼女は御影様のことが大好きで、一時でも彼のお世話係になり、あまつさえ婚約者となった私を激しく憎んでいたのだと……。
ハザマ様にとって、嫉妬で指輪を盗む程度ならまだ許容の範囲内だったが、命まで狙うのは絶対に見過ごせなかったらしい。
「ここは伏魔殿だから、仕方ないのかもな。……あの宝飾細工から厄介なモノが入り込んで、屋敷の人間が持つ悪意が余計に増幅している」
「あのう……また助けていただいて、ありがとうございました」
私が消え入りそうな声でお礼を言うと、ハザマ様はいつものようにフッと笑った。
「いや何、これからも例のブツを用意してくれるであろう初音が死んでは、私が困るしな」
(あぁ、恩を売って、またアレを買わせる気か……)




