帰ってきた指輪と三種のサイズ
私がお役目候補になってから、特別扱いされる日々が続いている。「お役目候補に掃除などさせられない」と掃除道具を取り上げられているので、相変わらず道具の要らない草むしりを続けていた。
御影様のお部屋は、小夏さんが入って掃除をしているらしい。
とにかく一生懸命に掃除をする感心な子である。昼間からいるので、中学校を卒業してから本家で働いており、高校には通っていないようだ。
一緒に草をむしりながら、小夏さんは御影様のことや、彼にまつわるツンデレエピソードを話してくれる。その時の彼女の笑顔はキラキラしていた。
ふと、小夏さんが言った。
「ハザマ様って、私たちには全く話さないのに、初音さんには良くお話しするんですね」
「複雑な事情があって……あ、でも絵とか美術の話をすると、乗ってくるかもよ?」
私はハザマ様の好きなジャンルを教えただけだったのだけれど……小夏さんは急に暗い表情になった。
「そういう高尚なことには、私は縁がないんです。……両親は私を捨てたので施設で育ちました。引き取ってくれたおばあちゃんも亡くなったので、ここで働いているんです」
話を暗くしないよう工夫したつもりが、完全に逆効果だった。
「そ、そうなんだ。でも美術って決して高尚なものじゃなくて、身近にあるものだから気づいてほしいな。ほら、お抹茶を立てる時のお椀にも美しさを感じるでしょ? そういったものだし」
必死にフォローする私を見て、小夏さんは羨ましそうに言った。
「初音さんみたいに大学に行ける人が羨ましい。私は、高校すら行けなかったから」
私は、自分の将来はAIの台頭で就職できないかもしれないこと、学歴が将来役に立たなくなるかもしれないことを伝えようとした。
だが、恵まれている立場から何を言っても自慢にしか聞こえないだろうと思い直し、別の質問をした。
「将来は、何をしたいの?」
「一つあるとすれば、御影様の御付きになりたいです」
「あら、それはすぐ叶えられるかもね」
私は彼女を励ました。
御影様、モテるじゃん。 でも、私はなんとなく……あれ? この気分って、二年前と同じ感じ? 私、妬まれてるのかな……。 なんとなくバツの悪さを感じ、
「お茶にしよっか! 御影様も誘おうね」
と、努めて気づいていないふりをした。
*****
その日の午後。失くした指輪を、ハザマ様が鎖付きで手渡してくれた。
「良かったぁ!」
私は心底ほっとして、すぐに首に着ける。
そして、Amazunから届いたものをハザマ様にお届けした。
「ハザマ様、ありがとうございました。御礼の例のブツです。ご確認ください」
ハザマ様は満足げに頷く。
「ご苦労であった」
「ハザマ様のその日の体調に合わせて、LL、L、Mをご用意させていただきました」
ハザマ様はフッと笑い、
「そんな必要無かったのに……Mサイズは御影にでもくれてやるとするか」
その時。足音が近づいてきたかと思うと、襖の前でピタリと止まり――
ぱあああぁぁぁぁああんっ!
と、勢いよく襖が開いて、御影様があらわれ静かに言った。
「初音になんてものを買わせているんだ? どうせLLなんて見栄だろう……初音が機転の利く女で良かったな」




