硫黄のお風呂と婚約指輪
お祓いにいらっしゃる予定だった陸様は、不運にも足止めを食らってしまい、後日のご訪問となってしまった。
そして最悪なことに、御影様のお部屋にしっかりとしまってあったはずの宝飾細工は、何者かによってすでに開けられてしまっていた。
視えるお二人は、「『誰が?』と犯人探しをするのはナンセンスだ」と言う。ハザマ様が渋い顔で口を開いた。
「こういう中に封じられているモノは、外へ出たいために自ら画策して、周りの人間を操るから」
「でも、なぜこのお屋敷で解き放たれたんです? 別に他の場所……それこそ、ヨーロッパのままでも良かったのに」
私が素朴な疑問を口にすると、御影様がわかりやすい例えで教えてくれた。
「屋敷神にしても悪魔にしても、人間から拝まれたり崇拝されたりして『念の力』を集めることで大きくなるんだよ。……まぁ、アイドルと一緒かな。この室生の家には、そのシステムがキッチリ揃っているからだと思うぜ?」
ハザマ様も、隣で深く頷いている。 その時、ふと私の頭の中に、何かの思念がスッと差し込んできた。
「……そうすると、人間がいないと、神も悪魔も存在できない……?」
私の言葉を聞いた二人は、綺麗に声を揃えて言った。
「「ご名答」」
*****
その日のアルバイト中。庭の草むしりにいそしんだため、たっぷり汗をかいて土や埃もかぶってしまい、私は本家でお風呂を借りることになった。
離れの浴室へ行くと、ツンと硫黄の匂いがする。
湯船を見ると、硫黄成分の入浴剤が入っているらしい。 私は、首に鎖で提げている指輪が気になった。指輪はプラチナなので大丈夫だとは思いつつも、
(大事な指輪だから、曇ったら嫌だな。念のため外しておこう……)
そう思い、浴室の洗面台にハンカチを敷いて、そこに指輪を置いてから入浴する。
入浴後。服を着ようとふと洗面台を見ると、指輪がなくなっている! あんなに、大事な大事な指輪なのに!!
私は慌てて御影様の元へ駆け込み、
「大事な指輪が、お風呂に入っている間になくなっちゃったんです! ちゃんと洗面台に置いておいたのに……どうしよう」
と泣きついた。
御影様は「落ち着け。一緒に探してやるから」と言って、一緒に浴室へついて来てくれた。
浴室に入るなり、彼が匂いに気がつく。
「……硫黄の匂いがするが、初音が入れたのか?」
「まさか! 指輪はプラチナですけど、硫黄で色が変わるかもしれないから入浴剤なんて入れないですよ。だからわざわざ外したんです」
「なるほどな。多分、硫黄の入浴剤を入れた奴が犯人だな。初音が指輪を外すことを計算してやってんじゃね?」
その悪意に気づき、私は泣きそうになった。
「そんなことするなんて……酷い!!」
「…………」
御影様は少しの間、黙り込んでしまったが、やがて口を開く。
「なぁ、初音。新しいの買ってやるから、犯人探しはやめようぜ」
その言葉に私は驚き抗議した。
「なくなったから買えばいい、というものではないです! 婚約指輪は唯一のもので、初恋が二回ないのと一緒なんです。……わかりますか!?」
上手く言葉にならなかった。
婚約した瞬間の想いが詰まった唯一無二の象徴を奪われ、それを新しいのを買うことで済ませようとする……そのことに腹がたってしまった。




