ツンデレ愛好家の二人
「ハザマよ、そろそろ俺たちは愛情を確かめあう時間だから、遠慮しろ」
御影様は、そう言って彼を部屋から追い出そうとする。
「ああ、気が利かなくてすまなかったな。じゃあ、初音、またな」
ハザマ様は大人しく引き下がり、去り際にそう声をかけた。
「ちょっと、まだ六時半じゃないですか。一緒に食事したっていいのに……。あの、美麗さんは卒業制作に没頭しているのですか?」
私が尋ねると、ハザマ様は首を横に振る。
「いや、卒業制作は既に終わって、卒業記念旅行に行っているらしい。今はフィレンツェだそうだ」
「フィレンツェ! わぁ、美麗さんいいな〜」
「この家に輿入れするとなると、もう自由に旅行にも行けなくなるからな」
「そっか〜、輿入れかぁ〜。おめでとうございます」
私がそう言うと、ハザマ様は振り向きざまに、私の胸元に鎖で提げられている指輪へスッと視線を落とし……ニッコリと微笑んで部屋を出ていった。
*****
ハザマ様はお役目の最有力候補であり、霊的な障害のせいでこの家から離れられない。
一方、御影様の本拠地は海外だ。彼となら、私をこの重苦しい家から連れ出してもらえそうだから……私は御影様との婚約を決めたのだ。
打算と言われても仕方ないけれど、ハザマ様と結婚するには「室生の家そのものと結婚する覚悟」のある人でなければ、その資格はない。
無論、私がこんな風に割り切って決断できたのは、自分自身がお役目になるなどとは微塵も思っていないからなのだけれど……。
*****
御影様と事を致した後。 お風呂をいただいて脱衣所に出ると、小夏さんというお手伝いさんが、着替えの浴衣を用意して待ってくれていた。
「あ、小夏さん。浴衣、ありがとうございます」
小夏さんは、たぶん十五、六歳くらいの、可愛らしく幼さの残る女の子だ。
彼女は私をジッと見て、おずおずと尋ねてきた。
「あの……御影様は、お優しくしてくださいますか?」
私は少し笑って答える。
「最初は怖くて、アルバイトに来るのにも勇気がいったの。でも、知れば知るほど、優しい心遣いをしてくれる人だとわかったわ」
小夏さんは、ぱあっと顔を輝かせた。
「そう! そうなんですよね。いつもお風呂もトイレもお部屋も……私たちが掃除をする時に楽になるように気にかけてくださるし……」
「御影様は言葉は辛辣で、よく知ろうとしないと良さがわからないよね。でも、ツンデレだから御影様の言葉の裏を探るのは楽しいね」
私がそう言うと、小夏さんは満面の笑顔でペコリと会釈して、楽しそうに仕事に戻っていった。




