脳内「ファイルを置き換えますか?」
勤務終了の時間になり、御影様のお部屋で休ませてもらっていると、ハザマ様もふらりとやって来た。
コーヒーを飲みながら三人で話し込んでいると、御影様があっけらかんと尋ねてくる。
「そういえばさぁ、惟光が慌ててたけど、初音も候補になったんだってー?」
「他の皆様のような能力がない私が……何かの間違いじゃないでしょうか?」
私が首を傾げると、御影様は笑いながら
「能力とか、あんま関係なくね? なぁ、ハザマ」
「そうだな。屋敷神が憑きやすいか、入りやすいかだと思うが……初音は余程、屋敷神に気に入られているのだな」
「他の方も、屋敷神様のお名前を教えてもらっているのですか?」
私が尋ねると、お二人は「「!!」」と目を見開いて驚いた。
「名前教えてもらったのか!?」と、
ハザマ様が身を乗り出して問う。
「はい。……なぜ、そんなに名前が重要なんですか?」
御影様は「はぁ、やれやれ」と息を吐き、呆れたように説明してくれた。
「例えるなら……初音、ネズミーランドの一生使えるフリーパスをもらえたら嬉しいだろう? それと一緒だ」
ハザマ様が補足する。
「この間のように、自分の実力を超えた困った案件の時に、屋敷神の名前を唱えると無条件で助けてもらえるんだ」
私は深く納得した。
「だから、名前を他人に教えてはいけないのですね。フリーパスを他人に貸してはいけませんから」
お二人は心底羨ましそうに、「「いいなー……」」と声を揃えた。
「お二人は大概の問題ならご自身で解決されるから、要らないじゃないですかー」
私が笑うと、ハザマ様は憂いを帯びた声で呟いた。
「これからは、そうもいかなくなるな。陸とも話したが、祝詞やお経が通じないモノが日本に入り込んでいる。異世界のポータルでも開いているんじゃないかな」
御影様も気怠そうに同意する。
「周りの奴らは俺らがお役目になりたがっていると思っているだろうが、他人のゴタゴタやら業やらに一生振り回される相談業なんて御免だぜ。この間の異形騒ぎで、さらに問題が複雑になってきてるからな」
ハザマ様は深く頷いた。
「私は引きこもっているからあまり変わらないが、律や御影は、お役目になると自由が無くなるから辛いかもな。……私は、あれだ。PC類が使えなくなるのが一番辛い」
月島秀青という人は、こんなにも匿名掲示板やPCに依存する人だっただろうか……。
私の知っている秀青さんはアウトドアが好きで、いつも周りに生徒が群がっていて、人に教えるのが大好きで……。もう、あの素敵な太陽のような秀青さんはどこにもいない……。
すると、私の脳裏に唐突にPCのダイアログ画面が浮かんだ。
思わず、私の中の『秀青さんファイル』を、目の前の『ハザマ様ファイル』で上書き保存してしまった!
(ああ、とうとう秀青さんをハザマ様として上書きしてしまった……。さようなら! 私の青春の全てだった秀青さーん!)
心の中で血の涙を流しながらそう叫んでいると、ハザマ様はジッと私を見て、目を三日月のように細め、ふっと口角を上げた。
「初音の頭の中見てると、忙しくて面白いな……」




