恋人たち
室生 初音 : 地方の芸大生
沙藤 美麗 : 同じく芸大生
ハザマ様 =室生 透青 室生家の巫覡をしている。
中の人は月島 秀青で、彼は死んだ事になっている
御影様 お役目様の内孫のうちの一人。
ハザマと同じく次のお役目候補で霊能力者
あれから、沙藤美麗さんとハザマ様はちょくちょく逢うようになった。 沙藤家の令嬢ということもあって、彼女は顔パスで本家に入れるらしい。
私はというと、ようやくハザマ様のストーカーじみた行為から解放され、ホッとしていた。 いくら好きな人とはいえ、二十四時間営業で監視されるのは、生活をすべて覗かれているようで怖い。
ある雪の降る日。 水回りの掃除を終え、御影様のお部屋を掃除しようとすると、彼が声をかけてきた。
「部屋の掃除は、二、三日に一回でいいぞ。今日はのんびりしないか? コーヒーでも淹れよう」
そう言って、彼自ら道具を用意してくれた。豆を挽いて淹れるコーヒーの香ばしい匂いが、暖かな部屋中に広がっていく。 二人でくつろぎながら、ふと、私はずっと気になっていたことを口に出した。
「私、お世話係として雇われましたけど、本当は逆だったんじゃないでしょうか? あまりにもハザマ様がつきまとうので、それを心配したお役目様や惟光さんが、わざわざ御影様のそばに居させてくれたのでは……?」
「やっと気づいた? そうだよ」
御影様はあっさりと頷いた。
「惟光から直接相談があってさ。実際に初音を見たらびっくりしたよ。ハザマの霊体が入り込んでて」
続けて、御影様は真剣なトーンで説明する。
「このままじゃ、霊的に覚醒して……俺らの世界では“めくれる”って言うんだけどさ。見えない世界に引っ張られて、良くない物が見えすぎたり、普通の生活ができなくなると思って。だから結界を張って、奴から引き離した」
私は深く納得した。
「なんとお礼を言っていいか……。自分でも、めくれてきているのは気付いていまして。ワームホール騒ぎの時に、頭の中に鮮明なイメージが湧いて『なんで私、こんな事がわかるんだろう?』って不思議だったんです」
御影様は柔らかく微笑んだ。
「とりあえず、今は現実維持だな。あ、あとメガネ掛けたクソ真面目そうな生き霊が初音に憑いているけど、これは無害そうだから放っておくぞ」
「ああ、湖西くんかぁ」
私は思わず苦笑した。
「初音って、意外にモテるな。天然だからかな」
御影様のからかうような言葉に、二人で顔を見合わせて笑い合う。 私たちは、しんしんと降る雪を窓越しに眺めながら、温かいコーヒーをゆっくりと味わった。




