13 役割分担
「そういえば、最近は役割がはっきりしてきましたよね」
リリアがフェンの背中を撫でながら、そんなことを口にした。レインは保存食の袋を畳みながら、その言葉に頷きを返した。
「確かに、前は全部なんとなくやっていましたけど、今は違いますね」
フェンは耳をぴくりと動かしながら、得意げに胸を張っている。一方のチビは、レインの肩の上で毛づくろいを続けていた。
「索敵なら、やっぱりフェンの方が優秀ですよね」
リリアはそう言いながら、フェンの鼻先を軽く指で撫でた。
「鼻の良さは比べものになりませんから、遠くの魔物でも気付いてくれます」
レインもこれまでの探索を思い返しながら、納得したように頷いた。
「三階層に入ってからは、フェンが反応する方が早いことも増えましたね」
フェンは褒められていると理解したのか、満足そうに尻尾を揺らしている。
「それに正面からの戦闘能力なら、間違いなくフェンの方が上でしょうね」
リリアの言葉に、レインも異論はなかった。ダンジョンウルフとしての身体能力は高く、噛み付きや体当たりの威力も十分だった。
「フォレストディアと比べても、近接戦闘ならかなり頼りになりますからね」
フェンは誇らしそうに鼻を鳴らしながら、さらに胸を張ってみせた。その隣では、チビが不満そうに尻尾を揺らしている。
「でも、チビにはチビにしかできないことがありますよ」
リリアは今度はチビを抱き上げながら、優しく頭を撫でた。
「隠れるのは得意ですし、小さいからこそ通れる場所もありますから」
レインはこれまでの戦いを思い返しながら、小さく笑みを浮かべた。
「奇襲も攪乱も上手いですし、敵の隙を作るのは完全にチビの仕事ですね」
チビは満足そうに鳴き声を上げながら、リリアの腕の中で胸を張った。
「キュッ」
「それに、素早さだけならフェンより上かもしれませんね」
リリアの言葉に、フェンは少しだけ悔しそうに耳を伏せた。
「確かに、一瞬で敵の懐へ潜り込む動きは真似できませんからね」
レインは肩をすくめながら、改めて二匹を見比べた。
「フェンが前衛で、チビが遊撃って感じでしょうか」
「役割としては、それが一番しっくりきそうですね」
リリアも納得したように頷きながら、二匹の背中を交互に撫でていく。
「フェンちゃんが敵を抑えて、チビちゃんが隙を作って、その間に私たちが攻撃する形ですね」
「前よりも、ちゃんとパーティらしくなってきましたね」
レインの言葉に、リリアは少し嬉しそうな笑みを浮かべた。
「最初は薬草採取ばかりでしたから、こういう話ができるようになるとは思いませんでした」
そう言ってから、リリアはふと自分の杖へ視線を落とした。
「あとは、守りの方をもう少し何とかできたらいいんですけど……」
「守り、ですか?」
「はい。回復と補助は使えても、誰かを庇うような魔法はまだ何も。……実家の父なら、そういうのは得意なんですけどね」
言いかけたところで、リリアははっとしたように口を閉じた。
「あ、いえ、何でもないです。忘れてください」
レインはそれ以上は聞かず、苦笑しながらチビを軽く撫でた。
「薬草採取の頃は、チビも荷物の上で寝てることも多かったですよね」
突然そんなことを言われたチビは、不服そうにレインを見上げた。
「キュゥ」
「今では立派な戦力ですから、もうそんなことは言いませんよ」
レインが慌てて訂正すると、チビはようやく機嫌を直したらしい。その様子を見ていたリリアは、小さく吹き出した。
「ふふっ、ちゃんと褒めないと拗ねるんですね」
「最近は自己主張も激しくなってきましたからね」
フェンも負けじと前足をレインの膝へ乗せてくる。
「お前も褒めてほしいのか」
大きな灰色の尻尾が、期待するように左右へ揺れていた。レインは思わず苦笑しながら、二匹の頭を順番に撫でる。
「これからも頼りにしてるからな」
二匹はそれぞれ満足そうな反応を返し、短い休憩時間は穏やかに過ぎていった。




