11 常時万全
三階層の探索は驚くほど順調だった。もちろん無傷というわけではない。狭い通路でゴブリンの棍棒を腕に受けることもあった。毒蜘蛛を避けた際に壁へ肩をぶつけることもあった。足場の悪い場所で転びかけて膝を擦ることもある。だが、その程度だった。命の危険を感じるような傷にはならない。何かあればすぐにリリアが治療してくれるからだ。戦闘が終わるたび、リリアは慣れた様子で杖を向ける。淡い光が傷口を包む。腫れが引く。痛みが消える。血が止まる。何度見ても不思議な光景だった。
「もう大丈夫です」
そう言われる頃には、本当にほとんど痛みがなくなっている。レインは手の甲を見た。さっきまで擦り傷があった場所だ。今は薄い跡しか残っていない。
「やっぱり凄いですね」
思わずそう言うと、リリアは少し照れたように笑った。
「軽い怪我だけですけどね」
「それでも十分ですよ」
レインは心からそう思った。フォレストディアに腹を裂かれた時は限界があった。大きな傷は完全には治せない。だが、今みたいな軽傷なら話は別だった。打撲。切り傷。擦り傷。そういった小さな怪我はほとんど残らない。その恩恵は想像以上に大きかった。以前なら腕をぶつければ、その痛みが次の戦闘まで残った。足を傷付ければ動きが鈍った。疲労も蓄積した。小さな傷の積み重ねが、探索の終盤では大きな差になる。だが今は違う。戦闘が終わる。治療する。次へ進む。その繰り返しだった。
「常に万全って凄いですね」
レインが呟く。リリアは少し首を傾げた。
「そうですか?」
「めちゃくちゃ凄いですよ」
レインは苦笑した。今まで一人でやっていたからこそ分かる。回復役がいるということの価値が。ギルドの資料室で思い描いていた理想とは違う。怪我は痛い。疲労も消えない。命だって一つしかない。だからこそリリアの存在が大きい。フェンが前衛を務める。チビが索敵と妨害を担当する。リリアが支援と回復を受け持つ。そして自分が敵を仕留める。少し前までは想像もできなかった形だった。
「パーティってこういうことなんですね」
レインがそう言うと、リリアは少し驚いたように目を瞬かせた。
「今さらですか?」
「今さらです」
即答すると、リリアが小さく笑う。レインもつられて笑った。一人で戦うのと。仲間と戦うのでは。こんなにも違う。三階層の奥を歩きながら、レインは改めて実感していた。




