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8 レベル2

森での連携訓練を終えたレインたちは、そのまま街へ戻ることにした。今日の目的だったフェンとの連携確認とチビの新しい能力の検証は十分な成果を上げており、これ以上無理に森へ残る理由もなかった。特に収穫が大きかったのはチビだった。進化したばかりだというのに、新たに得た糸の能力は想像以上に実用的だったのである。細く目立たないにもかかわらず十分な強度があり、実際の戦闘でも確かな効果を発揮していた。迷宮の狭い通路や待ち伏せが有効な場所なら、さらに活躍の場面は増えるだろう。帰り道の途中で冒険者ギルドへ立ち寄ったのは、半ば思いつきのようなものだった。せっかく街まで戻ったのだから、ついでに確認しておこう。そんな軽い気持ちだった。受付で魔導具を借りたレインは、まず自分から測定を行う。浮かび上がった結果は以前と変わらず、レベルは6のままだった。予想通りだった。半日ほど森で活動した程度で簡単に上がるなら、誰も苦労はしない。続いてフェンを測定する。こちらも変化はなく、表示されたのはレベル6だった。やはりそうかと思いながら頷き、最後にチビを魔導具へ乗せる。特に期待していたわけではない。ただ何となく確認してみようと思っただけだった。青白い光が浮かび上がる。


――――――――――


チビ


種族:ヴェノムラット


レベル:2


――――――――――


レインは思わず動きを止めた。隣で結果を見ていたリリアも同じように固まっている。しばらく誰も言葉を発しなかった。


「……2?」


ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど間の抜けたものだった。見間違いかと思った。しかし何度見直しても数字は変わらない。表示されているのは確かに2だった。昨日進化したばかりなのだ。進化した従魔のレベルが1へ戻ることは、シャドーラットへ進化した時にも確認している。つまりチビは、進化から一日も経たないうちにレベルを上げたことになる。


「早くないですか?」


リリアが率直な感想を口にする。


「早いですよね……」


レインも思わず頷いた。フェンはレベル6だった。森で生き抜いてきた時間を考えれば、そこへ到達するまでには相応の年月があったはずである。他の魔物も同じだ。経験を積み、戦い、生き残ることで少しずつ成長していく。それが普通だった。だがチビだけは違う。シャドーラットだった頃も異様な速度で成長していたし、ヴェノムラットへ進化した今も同じ現象が起きている。一度なら偶然で済む。しかし二度目となれば話は別だった。


「ネズミ系だから成長が早いのでしょうか」


リリアが首を傾げる。


「それもありそうですけど……」


レインは腕を組みながら考え込んだ。確かにダンジョンラットは繁殖力が高く、生息数も多い魔物として知られている。成長速度も他の魔物とは異なる可能性があった。だが問題は、それを確認する手段がないことだった。レインはテイマーになってから一度も同職の冒険者へ会ったことがない。街で見かけるのは剣士や槍使い、弓使いや魔術師ばかりであり、テイマーはほとんど存在しない職業だった。従魔の成長速度について語れる相手そのものがいないのである。


「資料を探してみますか」


リリアの提案にレインも頷いた。分からないまま考え続けるよりはよほど建設的だった。二人はギルドの資料棚へ向かい、初心者向けの解説書や魔物図鑑を手当たり次第に読み始める。テイマー、従魔や育成などそれらしい単語を探しながら何冊もページをめくったが、

期待したほどの成果は得られなかった。


「思ったより少ないですね」


リリアがため息混じりに呟く。レインも同感だった。そもそもテイマー自体が少数派なのだろう。書かれている内容も初歩的なものばかりで、従魔は経験を積むことで成長するだとか、レベルによって能力が向上するといった説明しか見当たらない。肝心の成長速度についてはほとんど触れられていなかった。


ようやく見つけた古い資料にも、


『従魔の成長速度は種族や個体差による』


と書かれているだけだった。


さらに読み進めると、


『主との相性によっても変化する』


という一文が続いている。本を閉じたレインはしばらく考え込んだ。結局のところ、チビだけが異様な速度で成長しているという事実は変わらない。ネズミ系魔物そのものが成長しやすいのかもしれないし、特殊進化による影響なのかもしれない。あるいは融合進化そのものに何らかの秘密がある可能性も考えられたが、確かなことは何一つ分からなかった。ただ、比較対象として身近にいるフェンは極めて普通だった。レベル6という数字も森で生きてきた年月を考えれば不自然ではなく、資料に書かれていた一般的な成長速度とも大きく外れていない。そう考えると、やはり問題はチビの方にあるのだろう。その当人はというと、肩の上で大きなあくびをしながら尻尾を揺らしていた。自分が話題の中心になっていることなど気にも留めていない様子で、緊張感の欠片もない。


「キュ〜」


間の抜けた鳴き声を聞きながら、レインは思わず苦笑した。調べれば調べるほど謎は増えていく。しかし不思議と不安はなかった。少なくともチビは元気に生きているし、成長そのものが悪い変化とは思えない。むしろ、この異常な成長速度こそが特殊進化した従魔だけに現れる特徴なのだとしたら、自分たちはまだその価値の一端に触れたに過ぎないのかもしれなかった。


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