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7 連携の確認

糸の能力を確認した後も、レインたちはすぐには帰らなかった。せっかく森まで足を運んだのだ。新しい能力を発見しただけで終わらせるには惜しいし、何よりチビとフェンを実際に連携させた場合にどう動くのか確認しておきたかった。


「次は連携ですね」


リリアの言葉にレインも頷く。チビもフェンも、それぞれ単独なら十分に頼れる戦力になりつつある。しかし実際の戦闘では別々に動くだけでは意味がなく、お互いの長所を活かせるかどうかが重要だった。


「まずは危険の少ない相手で試してみましょう」


二人と二匹は森の中をゆっくり進み始めた。探索役は自然とチビになっていた。肩の上に乗ったまま周囲へ視線を巡らせる姿は相変わらず小さなネズミそのものだったが、その動きには以前より迷いが少ない。森へ入ってからも進む方向を判断する速度が明らかに速くなっており、索敵能力そのものが向上しているように見えた。しばらく進んだところでチビが耳をぴくりと動かす。


「キュ」


小さな前足が前方を指し示した。レインは立ち止まり、そちらへ意識を向ける。木々の向こうから草を揺らす音が聞こえた。慎重に覗き込むと、そこにはホーンラビットが二匹いる。まだこちらには気付いていないようだった。


「いたな」


小声で呟きながら、レインは短く考える。これまでは見つけた瞬間に全員で仕掛けることが多かった。しかし今日は訓練が目的であり、結果よりも過程を確認することが大切だった。


「フェン、一匹を追い込めるか」


呼び掛けられたフェンはレインを見上げ、小さく喉を鳴らした。どうやら意味は伝わったらしい。レインは内心で少し驚く。仲間になってまだ日も浅いが、思っていた以上に理解力が高い。


「チビは援護だ」


「キュッ」


二匹がそれぞれ身構える。レインは足元から小石を拾い上げると、ホーンラビットたちの近くへ投げた。乾いた音が響く。驚いた獲物たちが一斉に顔を上げた。その瞬間だった。フェンが地面を蹴る。灰色の体が草を掻き分けながら一気に飛び出し、ホーンラビットたちは慌てて逃走を始めた。一匹は右へ走り、もう一匹は反対側へ向かう。その動きを見たチビが前足を振った。細い糸が木と木の間へ張られる。ほとんど目に見えないほど細い糸だった。当然ホーンラビットも気付かない。次の瞬間、その足が糸へ引っ掛かった。勢いよく走っていた体が前へ投げ出され、獲物は転がるように地面へ倒れ込む。


「おお……」


レインは思わず感嘆の声を漏らした。偶然ではない。チビは逃走経路を読んだ上で糸を張っている。その隙をフェンは見逃さなかった。転倒したホーンラビットへ飛び掛かり、そのまま首へ牙を突き立てる。暴れていた体が力を失い、森の中は再び静かになった。戦闘は数秒で終わっていた。フェンはどこか得意そうに胸を張り、チビはさらに誇らしげに尻尾を振っている。どう見ても自分の手柄だと言いたいらしい。


「思ったよりずっと良いですね」


リリアが感心したように呟く。レインも同じことを考えていた。フェンは正面から相手を仕留める役割に向いており、チビは妨害や誘導を得意としている。役割分担がはっきりしている上に、お互いの能力が自然と噛み合っていた。その後も相手を変えながら何度か試してみた。ホーンラビットや森ネズミ、フォレストウィーゼルなど危険の少ない魔物を相手に訓練を続けるうちに、二匹の特徴も少しずつ見えてくる。フェンは想像以上に扱いやすかった。指示を理解する能力が高く、無理な突撃や勝手な行動もほとんどしない。元々群れで生活する魔物だからなのか、仲間と協力することに慣れているようだった。その一方でチビはまったく違う。指示は聞く。だが、それだけでは終わらない。勝手に考え、勝手に動き、その上で結果まで出してしまう。逃げ道を塞ぐように糸を張ったかと思えば、木の上から垂らした糸で獲物の視界を妨害し、時にはレインの指示していない位置へ回り込んで追い込みまで始める。


「賢いですね」


リリアが感心したように言う。


「賢いというより、悪知恵が働くんですよ」


レインは苦笑しながら答えた。チビの場合は従順というより、自分で考えて動いている印象の方が強い。それでも結果が良いのだから文句は言えなかった。十分な訓練を終えたところで、レインたちは川辺で休憩を取ることにした。澄んだ水で喉を潤しながら腰を下ろすと、フェンは疲れた様子もなく草地へ寝転がる。その背中にはいつの間にかチビが乗っており、自分専用の座布団であるかのようにくつろいでいた。フェンは明らかに不満そうな顔をしていたが、振り落とそうとはしない。諦めたのか、それとも許したのかは分からないが、とにかく二匹の間に険悪な空気はなかった。その様子を眺めながら、レインは密かに安堵していた。昨日まで赤の他人だった二匹である。仲良くなれるか少し心配していたが、その不安は杞憂だったらしい。むしろ思っていた以上に馴染んでいるように見えた。木々を揺らす風の音を聞きながら、レインは静かな森を見渡す。フェンが仲間になり、チビは新たな進化を果たした。そして自分自身もレベル6へ到達している。少し前までの自分は2階層の奥へ進むだけで精一杯だった。フォレストディアと遭遇した時には、本気で死を覚悟したほどである。それでも今は違う。まだ強者と呼べるほどではないし、迷宮の深部には比較にならないほど危険な魔物もいる。それでも確かに以前より前へ進んでいるという実感だけはあった。だからこそ、今は焦らず積み重ねていけばいい。そう考えながら立ち上がったレインは、くつろいでいた二匹へ声を掛ける。しかし彼はまだ知らなかった。この日の夕方、街へ戻ってから確認することになるチビの情報が、新たな疑問と悩みを運んでくることになるのを。


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