3 歓迎会
フェンが正式に仲間となったその日の夕方。レインたちは、街の大通りから少し外れた食堂へ足を運んでいた。
「それで、本当にここでいいんですか?」
リリアが店の看板を見上げながら尋ねる。
「高い店じゃないですけど」
「今日はお祝いだからな」
レインは少し照れくさそうに頭をかいた。
「フェンも仲間になったことだし、何もしないのも変だろ」
そう言って足元を見る。灰色の毛並みを揺らしながら歩いていたフェンは、不思議そうに首を傾げていた。自分が話題になっていることは分かっているらしい。
「ウォフ?」
「お前の歓迎会だよ」
「キュッ!」
レインの肩に乗っていたチビが元気よく鳴いた。自分も歓迎会をしたかったと言いたげな様子である。
「チビの時は余裕なかったからな」
冒険者になったばかりで、毎日を生き抜くだけで精一杯だった。食事を豪華にする余裕などなかったのである。
「じゃあ、今回は二匹まとめてお祝いですね」
リリアが微笑んだ。
「そうだな」
店内へ入ると、香ばしい肉の匂いが鼻をくすぐった。夕食時ということもあり、店内は仕事帰りの客で賑わっている。
「いらっしゃい!」
店員に案内され、四人掛けの席へ腰を下ろした。正確には二人と二匹だ。フェンはレインの足元で大人しく座り、チビはテーブルの端から興味津々に周囲を見回している。
「フェンは何が食べられるんだろうな」
「お肉じゃないですか?」
「ですよね」
二人で相談しながら注文を決めていく。しばらくして料理が運ばれてきた。焼き立てのパン。野菜の入ったスープ。香草をまぶしたローストチキン。そしてフェンとチビの前には、味付けをしていない茹で肉が置かれる。
「ほら、フェン」
レインが皿を差し出す。フェンは少し警戒しながら匂いを嗅いだ。しかし問題ないと判断したのか、ゆっくりと口を付ける。
「ウォフ」
次の瞬間。凄まじい勢いで食べ始めた。
「……よほどお腹が空いていたんですね」
リリアが苦笑する。森の中で一匹で生き抜いてきたのだ。満足に食事を取れない日もあっただろう。フェンは肉を食べ終えると、今度はパンを見つめ始めた。
「それも食べるのか?」
「ウォフ」
試しに小さくちぎって渡す。すると普通に食べた。
「何でも食べるんですね」
「育ち盛りなのかもな」
そんな話をしていると。
「キュッ!」
チビがフェンの皿へ飛び込んだ。狙いは残っていた最後の肉である。
「おい!」
しかしフェンは怒らなかった。むしろ当然のように肉を半分譲る。
「ウォフ」
「キュ!」
二匹は仲良く並んで肉を食べ始めた。
「仲良いですね」
「意外だったな」
レインは少し笑う。助けたばかりの頃は、互いに警戒していたはずだった。それでも今では自然と隣にいる。その様子を見ているだけで、胸の奥が温かくなった。
「改めて」
リリアがコップを持ち上げる。
「フェンの加入、おめでとうございます」
「おめでとう」
レインも水の入ったコップを掲げた。
「ウォフ?」
「キュ?」
事情を理解していない二匹も、とりあえず鳴いて応える。
「「乾杯」」
コップが軽く触れ合う。賑やかな店内の喧騒の中で、その小さな音だけが不思議とはっきり耳に残った。冒険者としての生活は楽ではない。怪我もする。危険も多い。明日どうなるか分からない。それでも。こうして笑い合える時間は確かにあった。
「これからよろしくな、フェン」
レインが頭を撫でる。フェンは少しだけ目を細めた。
「ウォフ」
その声は、以前よりずっと穏やかに聞こえた。チビも負けじとレインの肩へよじ登る。
「キュ!」
「分かってるよ。お前もな」
レインが苦笑しながらチビの頭を撫でた。二匹の従魔。頼れる仲間。そして隣には、一緒に戦ってくれるリリアがいる。気付けば、いつの間にか一人ではなくなっていた。レインは目の前の光景を見渡しながら、小さく笑う。
「……明日からも頑張るか」
その言葉に答えるように。
「キュ!」
「ウォフ!」
二匹の鳴き声が重なった。




