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07 レベル9

「チビ」


「キュ?」


レインはチビを抱き上げ、そのまま魔導具の台座の上へそっと乗せた。チビは何をするのか分からないまま、きょろきょろと周囲を見回している。


「じっとしててくれよ」


「キュ」


返事なのかどうか分からない鳴き声を上げながらも、チビは大人しくその場に座った。レインは魔導具へ手を伸ばす。ひんやりとした感触が掌へ伝わった直後、装置の表面へ淡い光が広がっていく。やがて、青白い文字が空中へ浮かび上がった。


――――――――――


チビ


種族:シャドーラット


レベル:9


――――――――――


レインは思わず目を瞬かせた。一度だけではない。二度、三度と確認する。しかし、表示された内容は変わらなかった。


「……え?」


思わず漏れた声は、困惑そのものだった。隣に立っていたリリアも、目を見開いたまま固まっている。


「レベル……9ですか?」


「9ですね……」


二人は揃って表示を見つめた。どちらかの見間違いではない。魔導具の故障とも思えなかった。頭の中で自然と計算が始まる。チビが進化した時点で、レベルは一へ戻っていた。それは間違いない。実際にレイン自身が確認している。そこから経験した出来事を、一つずつ思い返していく。フォレストディアとの死闘。森での討伐依頼。初心者講習。そして三階層での探索など確かに戦ってきた。決して楽な道のりではなかった。


「……早くないですか?」


リリアが率直な感想を口にする。レインも同じことを考えていた。


「早いと思います」


自分自身は現在レベル6、対してチビはレベル9。単純な数字だけを見れば、チビの方がはるかに成長していることになる。従魔の成長速度について詳しく知っているわけではない。それでも、これは普通ではないように思えた。


「キュッ?」


当の本人はというと、何が起きているのかまったく理解していない様子だった。レインたちが自分を見ていることに気付くと、どこか得意げに胸を張る。


「……褒められてると思ってますね」


「そうですね」


リリアの言葉に、レインは思わず苦笑した。チビの頭を撫でると、満足そうに目を細める。レインは小さく息を吐いた。進化したばかりだと思っておりこれから少しずつ成長していくものだと考えていた。しかし、実際には違ったらしい。チビは今この瞬間も、驚くほどの速度で力を伸ばしている。なぜなのか、進化したことが原因なのか。それとも、ブラックマウスという種族そのものに秘密があるのか。あるいは、チビ自身が特別な個体なのか。考えてみても、答えは出なかった。分かっていることは少ないが、確かなこともある。三階層での戦闘では、チビの存在が大きな助けになっていた。索敵能力は高く、小さな身体を活かした奇襲も得意としている。敵の隙を作り出し、レインたちへ勝機をもたらしていた。以前のように守られるだけの存在ではない。すでに、共に戦う相棒になっている。


「キュ?」


チビは不思議そうに首を傾げながら、レインの顔を見上げた。何か問題でもあったのか、とでも言いたげな表情だった。レインはそんなチビを抱き上げると軽い身体の重みが腕へ伝わった。


「お前、本当に何者なんだ?」


「キュッ」


問い掛けに対する返事は、いつも通りの鳴き声だけだった。それでも、チビはどこか嬉しそうだった。レインは小さく笑う。答えはまだ分からない。しかし、一つだけ確信できることがあった。自分が思っている以上に。チビは特別な存在なのかもしれない。そして、その特別な存在は今も変わらず、レインの腕の中で気持ち良さそうに喉を鳴らしていた。


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