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05 バルトのおっさん

査定を終えたレインは、受付へ軽く頭を下げると、ギルドの片隅にある空いた席へゆっくりと腰を下ろした。背もたれへ身体を預けた途端、それまで張り詰めていた緊張が一気にほどけ、大きな息が自然と口から漏れ出す。目の前の机には、今日の探索で得た報酬が革袋と一緒に置かれていた。魔石や素材の査定額としては決して悪くない金額だったものの、手放しで喜べるほど余裕があるわけではない。装備の修理費や消耗品の補充代に加え、毎日の宿代まで考え始めると、手元へ残る金額は決して多くなかった。


迷宮へ潜れば稼げると言われるが、それは生きて帰れた者だけの話である。命懸けで得た報酬も、必要な出費を差し引けば驚くほど少なくなってしまう。冒険者という仕事の厳しさを、レインは改めて実感していた。机の上ではチビが小さく身体を丸めながら座っており、赤い瞳で心配そうにレインの顔を見上げている。


「キュッ……?」


どこか気遣うような鳴き声を聞くと、レインは小さく笑いながらチビの頭を優しく撫でた。


「大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから」


そう答えたものの、心も身体も想像以上に疲れていることは自分でもよく分かっていた。思わず漏れたため息には、自分でも驚くほど濃い疲労感が滲んでいる。冒険者として生活していく以上、稼ぎ続けなければ明日の生活すら成り立たない。それが分かっているからこそ、休んでばかりもいられなかった。


そんなことを考えながら机の上へ視線を落としていると、不意に聞き覚えのある低い声が頭上から降ってきた。


「景気の悪い顔をしてるじゃねぇか、坊主」


レインは驚いたように顔を上げ、その声の主を見つけると自然と表情が緩んでいく。そこへ立っていたのは、見慣れた中年の男だった。日に焼けた顔には無精髭が目立ち、深く刻まれた皺からは長年森で生きてきた苦労が伝わってくる。使い込まれた革鎧には何度も修繕した跡が残っており、新品とは程遠い見た目だった。それでも丁寧に手入れされていることだけは、一目見ただけでよく分かる。背中には採集用の大きな籠を背負い、腰には使い古された一本の短剣だけが提げられていた。豪華な装備など一つも身に着けていない。それでも歴戦の冒険者らしい空気が自然と漂っており、森で暮らす猟師のような落ち着いた雰囲気を纏っていた。


「バルトのおっさん」


レインは考えるより先に、その呼び名を口にしていた。男は露骨に眉をひそめると、不満そうな表情でレインを睨み返す。


「誰がおっさんだ」


「おっさんですよね」


レインが何気なく言い返すと、男は肩をすくめながら大きくため息を吐いた。


「まだ四十七だぞ」


その年齢を聞いても、レインの考えはまったく変わらない。十分におっさんだとしか思えなかった。男は何やらぶつぶつと文句を言い続けながらも、向かいの席へ当然のような顔で腰を下ろす。その姿を見つけたチビは嬉しそうに尻尾を振りながら、机の上をぴょんぴょんと跳ね始めた。


「おう、ネズミ」


「キュッ!」


バルトは慣れた手つきでチビの頭を優しく撫でると、チビは気持ち良さそうに目を細めながら機嫌よく鳴き声を上げる。その光景を眺めているうちに、レインの表情からも自然と疲れが少しずつ消えていった。


この男との付き合いは、不思議と言えば不思議なものだった。血の繋がりはもちろんなく、師弟というほど大袈裟な関係でもない。それでも困った時にはいつも顔を合わせ、気付けば様々なことを教わってきた相手でもある。

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