03 乗合馬車の選択
ギルドへ入ると、依頼帰りの冒険者たちで賑わっていた。討伐報告をする者、酒場へ向かう者、翌日の依頼を探す者。それぞれが思い思いの時間を過ごしている。レインたちも受付へ向かい、今日の探索で得た魔石や素材を提出した。今回の収穫は決して多くない。迷宮での探索そのものよりも、昨日の獲物の回収や装備の手入れに時間を使ったためだ。受付嬢は慣れた手つきで査定を進めていく。魔石の大きさを確認し、素材の状態を見極め、帳簿へ金額を書き込んでいく様子には無駄がなかった。
「本日の買い取り額は、銀貨三枚と銅貨八枚になります」
革袋へ硬貨が移され、じゃらりと小気味良い音が響く。レインは礼を言いながら、それを受け取った。薬草採取だけをしていた頃と比べれば十分な収入だった。しかし、フォレストディア二頭を持ち帰った時のような大きな利益には遠い。査定を終えた後、レインはホールの隅にある長椅子へ腰を下ろした。リリアもその隣へ座り、チビは当然のようにレインの膝の上で丸くなる。
「何か気になることでもあるんですか?」
リリアの問いに、レインは手の中の革袋を軽く揺らした。
「乗合馬車って、どうなんでしょうね」
「迷宮方面へ向かう馬車ですか?」
「ええ。あれを使えば、探索時間はかなり増えると思うんです」
街から迷宮までの往復には、想像以上の時間を取られる。歩いて移動するだけで疲労も蓄積するため、その負担は決して小さくない。もし乗合馬車を利用すれば、その分だけ迷宮で活動できる時間は増えるはずだった。
「確かに、時間には余裕ができますね」
リリアも頷く。しかし、それは単純な話ではない。
「問題は、馬車代に見合うだけの利益が出るかなんですよね」
探索時間が増えたとしても、必ず収穫が増えるとは限らない。魔物と遭遇しない日もある。思うように魔石が手に入らない日もある。出費だけが増える可能性も十分にあった。
「今までの収入と比べてみますか?」
リリアの提案に、レインは頭の中で計算を始める。一階層から二階層までの探索で得られる収入は、おおよそ銀貨二枚から四枚ほど。調子が良ければ、それ以上になることもある。だが、三階層についてはまだ情報が少なかった。魔物の強さや素材の価値、そして探索効率。どれも判断するには経験が足りない。
「結局、三階層次第ですね」
レインはそう結論づけた。三階層の収益性が高ければ、馬車代などすぐに回収できる。逆に、それほど差がないのであれば、今まで通り歩いた方が堅実だった。
「もう少し様子を見た方が良さそうですね」
「そうですね。武器を買ったばかりですし、革鎧の修理代も払いましたから」
まだ十分な蓄えがあるとは言えない。無駄な出費は避けたい。だからこそ、まずは情報を集めるべきだろう。レインは革袋の中の硬貨を指先で確かめた。以前より確実に増えている。だが、安心できるほどではない。もっと稼ぎたい、もっと強くなりたい。そして、いつかはさらに深い階層へ辿り着きたい。そのために必要なのは焦りではなく、確実な積み重ねだった。
「帰りましょうか」
レインが立ち上がる。
「はい」
リリアも続き、チビは軽やかにレインの肩へ飛び乗った。ギルドホールの喧騒を背に、三人は出口へ向かう。次に迷宮へ潜る時には、また少し違う景色が見えるかもしれない。そんな期待を胸に抱きながら、レインたちは夕暮れの街路を歩き始めた。




