21 リリアの装備
リリアがふと、周囲の店を見渡す。
「……次は、私の装備ですね」
その言葉にレインは一瞬だけ視線を向ける。リリアのローブは、確かにところどころ擦り切れていた。治癒と支援を繰り返す立ち位置なら、耐久は命に直結する。
「行きましょう」
レインは迷わず言った。もう財布は空だ。それでも、必要なものは分かっている。二人は並んで通りを歩き出す。チビがその間を、少し誇らしげに先導するように走っていった。
通りを歩いていると、視線がいくつか刺さった。
「またあのパーティか」
「ネズミ連れてるやつだろ」
「テイマーって、正直よく分からんよな」
悪意というほどではないが、軽い嘲りと好奇の混ざった声だった。チビはそれに気付いているのかいないのか、相変わらず足元をちょこまかと歩いている。リリアが小さく眉をひそめた。
「気にしなくていいですよ」
レインは短く頷く。
「慣れてます」
そう言いながらも、昔よりは少しだけ、耳に残るようになっていた。フォレストディアを倒す前なら、気にも留めなかっただろう声だ。今は違う。“見られている側”になっている。
目的の店は、布と革を扱う仕立て屋だった。武器屋よりも静かで、少し柔らかい空気がある。店主の女性が、二人を見るなり軽く会釈した。
「ローブですね」
「はい。支援魔法用で」
リリアが一歩前に出る。並べられたローブは、どれも今のものよりしっかりしていた。防寒性、耐久性、そして魔力の通りやすさ。レインは横で見ながら思う。
(こっちもちゃんと金がかかるんだな……)
値札を見た瞬間、その考えは確信に変わった。銀貨数枚から、上は十枚近いものまである。リリアは慎重に触れながら選んでいく。
「これ、動きやすいですね……でもこっちは補助魔法が通りやすい」
店主が説明を加える。
「戦闘補助なら後者ですね。ただ少し高いです」
リリアは一瞬だけレインを見る。レインは無言で頷いた。
「それにしましょう」
リリアは少しだけ驚いた顔をしてから、小さく笑った。
「……ありがとうございます」
支払いを済ませたあと、レインは店内の奥にある小さな棚に目を向けた。そこには杖が並んでいた。木製の簡素なものから、金属で補強されたものまで。そしてそのいくつかには、魔石をはめ込める構造がある。レインは無意識に足を止める。
リリアもそれに気付いたのか、視線を追う。
「いい杖……ですね」
店主が少しだけ苦笑した。
「魔石付きのは高いですよ。かなり」
一本を手に取って見せる。小さな青い魔石がはまっているだけで、値段は今までの装備とは桁が違った。
「これは中級品ですね。回復系に向いてますが……銀貨二十枚近くします」
レインは一瞬だけ黙った。さっきまでの残り銀貨では、到底届かない。チビがその杖をじっと見ている。
「キュ?」
意味は分かっていない。ただ光る石に興味があるだけだ。リリアはそっと杖を戻した。
「今は……まだですね」
その言葉に、レインも頷く。
「優先は生きる方です」
言いながらも、視線だけは少しだけ名残惜しそうに棚を見ていた。
店を出ると、リリアは新しいローブの裾を軽く整えた。
「少しだけ、強くなった気がします」
「見た目も、ですか?」
「はい」
レインは小さく笑う。
「中身もそうなればいいですね」
チビがその足元で誇らしげに鳴いた。まだ足りないものは多い。杖も、余裕も、安心も。それでも一つずつ揃ってきている。三人は並んで、次の現実へ向かって歩き出した。
第三章は以上で終了です
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