↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/67

20 今日は買いに来ました

前に一度訪れた武器屋は、ギルドから少し外れた通りにある。分厚い木の扉を押すと、鉄と油の匂いが鼻を突いた。壁には剣、槍、短弓、そして見慣れない補助具まで並んでいる。以前はただ眺めるだけだった場所。今は違う。


「おう、また来たか」


奥から出てきた店主がレインを見るなり、低い声で言った。前回と同じ男だった。無精髭に焼けた腕、目だけがやけに鋭い。レインは軽く頭を下げる。


「今日は買いに来ました」


その言葉に、店主の口角がわずかに上がる。


「ほう」


レインはまず自分の短剣を取り出した。すでに何度も使い、刃こぼれも出ている。


「そろそろ限界だと思います」


「だろうな」


店主は一瞥して即答した。そして棚の奥から何本かの短剣を並べる。


「お前みたいな体格なら、軽さ優先だ」


一本を指で弾く。


「これか、こっち。どっちも扱いやすいが――」


リリアが横から覗き込む。


「……バランスが違いますね」


店主はちらりと彼女を見る。


「分かるのか嬢ちゃん」


「少しだけです」


レインは二本を持ち比べた。確かに軽い方は取り回しが良いが、もう一方はわずかに重さがあり、突きの安定感がある。


「……こっちで」


レインは少し重い方を選んだ。店主は鼻を鳴らす。


「悪くねぇ判断だ」


次に店主はレインの革鎧を見るなり、ため息をついた。


「こりゃ直すだけじゃダメだな」


「え?」


「防御が薄すぎる。次やられたら今度は運じゃ済まねぇぞ」


言葉は乱暴だが、冗談ではない。レインは腹の傷を思い出して無言になる。店主は顎で壁を指した。


「盾はやめとけ」


「……やっぱりですか」


「この体格じゃ重さに振り回される」


即答だった。


「じゃあ、どうすれば……」


店主は少しだけ考え、それから奥から一つの籠を持ってくる。中には黒光りする金属の小手があった。ただの金属ではない。表面に甲虫のような硬い光沢がある。


「甲虫系モンスターの殻だ」


店主はそれを指で叩く。コン、と乾いた音がした。


「軽い。硬い。防御と機動のバランスがいい」


リリアが目を細める。


「魔物素材ですね」


「ああ。こいつなら盾より役に立つ」


レインは小手を手に取った。驚くほど軽いのに、安心感がある。


「これ……いいですね」


店主は短く頷いた。


「だろ」


その後、店主は革鎧を一度預かると言った。


「直すついでに補強しとく。今のままだと紙みてぇだからな」


「お願いします」


「防御力上げないと、次は死ぬぞ」


さらりと言われ、レインは苦笑するしかなかった。だが、事実だった。


武器屋の重い扉が、背後でゆっくりと閉じた。レインは肩から力が抜けるのを感じながら、懐の革袋を押さえる。中身はもうほとんど空に近い。さっきまでそこにあった“銀貨の重み”が、今は嘘みたいに軽い。


「……本当に、全部使っちゃいましたね」


リリアが小さく言う。


「ですね」


レインは短く返した。合計、銀貨二十八枚。討伐報酬とこれまでの貯金、全部合わせてようやく届いた額だった。最初は少し余るかと思っていた。だが現実は違う。武器、革鎧の補強、小手の素材加工代まで含めると、ぎりぎりだった。最後の支払いを終えた瞬間、財布の底が完全に空になった時の感覚は、思っていたよりも重かった。ただ、不思議と後悔はなかった。


店の奥で受け取った短剣は、前のものとは明らかに違っていた。重心が安定しており、刃の通りも良い。甲虫系の魔物素材で補強された小手は、腕を動かした時の安心感がまるで違った。


「防御力は、これでやっと最低ラインだな」


店の親父の言葉が頭に残っている。


「冒険者やるならな。攻撃より先に死なねぇ装備にしろ」


容赦のない物言いだったが、妙に納得できた。店を出ると、昼の光が街道に落ちていた。チビは足元で伸びをしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。