↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/68

12 買い取り

ギルドの扉を開いた瞬間、近くにいた冒険者たちの視線が集まった。それも当然だった。レインとリリアの荷袋は今にも破れそうなほど膨らみ、その後ろにはフォレストディアの枝肉まで引きずっている。受付にいた女性も思わず目を丸くした。


「えっ……」


レインは枝肉を指差す。


「フォレストディアを二頭討伐しました。買い取りをお願いしたいんですが」


受付嬢は枝肉と二人の顔を何度か見比べた。新人だと知っているのだろう、驚きを隠せていない。


「そ、それは凄いですね……」


そう言った後、すぐに仕事モードへ切り替わった。


「素材の査定ですね。こちらではなく解体場へお願いします」


「解体場ですか?」


「はい。大型獣の素材は専門の担当者が確認しますので」


受付嬢は奥の通路を指差した。


「そのまま進んでください」


レインたちは礼を言い、枝肉を引きずりながら奥へ向かった。通路を抜けると広い作業場が現れる。血と革の匂いが混じった独特の空気の中、壁には様々な解体用の道具が並んでいた。その中央に一人の男が立っている。大きな革エプロン、丸太のような腕、そして首まで伸びた髭。まるで熊がそのまま人間になったような男だった。


男は枝肉を見るなり眉を上げた。


「ほう」


低い声が響く。


「新人がフォレストディアか」


レインは少し緊張した。男は無言で近付き、枝肉を確認し始める。角、皮、切断面、肉。手慣れた様子で次々と見ていき、しばらくして頷いた。


「悪くねぇな」


レインは少しだけ肩の力を抜いた。男はフォレストディアの首元を指差す。


「ここはちゃんと取れてる」


次に皮を見る。


「多少荒いが問題ねぇ」


さらに腹を開いた部分も確認する。


「初心者なら上出来だ」


男はそう言いながら髭を撫でた。


「完璧じゃねぇ」


その言葉にレインの肩が僅かに下がる。だが男は続けた。


「だが減額するほどでもねぇな」


思わず安堵の息が漏れた。講習で教わった通りにやった甲斐があった。男は今度は引きずってきた枝肉へ視線を向ける。こちらは少し顔をしかめた。


「こっちは削れてるな」


地面と擦れた部分の肉を指で押すと、土や小石が入り込んでいた。


「まあ仕方ねぇ」


短いナイフを取り出し、慣れた手つきで削れた部分を切り落としていく。無駄なく、素早く。レインが解体講習で見た教師よりも遥かに手際が良かった。


「この辺は商品にならん」


切り落とされた肉が脇の桶へ放り込まれる。だがそれでもフォレストディアは大きい。削られた部分など全体から見ればわずかだった。男は残った肉を見回しながら頷く。


「取れる肉は十分ある」


革も使える。角も状態が良い。魔石も問題ない。一通り確認を終えた男は帳面を取り出し、炭筆を走らせる。数字を書き込みながら計算しているようだった。レインは無意識に唾を飲み込んだ。これだけ苦労したのだ。少しでも高く売れてほしい。隣ではリリアも同じように結果を待っていた。


やがて男は帳面を閉じる。


「よし」


大きな手で帳面を叩いた。


「査定してやるから待ってろ」


レインの心臓が少しだけ早く鼓動した。今日一日の成果が、ようやく数字になる瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。