12 買い取り
ギルドの扉を開いた瞬間、近くにいた冒険者たちの視線が集まった。それも当然だった。レインとリリアの荷袋は今にも破れそうなほど膨らみ、その後ろにはフォレストディアの枝肉まで引きずっている。受付にいた女性も思わず目を丸くした。
「えっ……」
レインは枝肉を指差す。
「フォレストディアを二頭討伐しました。買い取りをお願いしたいんですが」
受付嬢は枝肉と二人の顔を何度か見比べた。新人だと知っているのだろう、驚きを隠せていない。
「そ、それは凄いですね……」
そう言った後、すぐに仕事モードへ切り替わった。
「素材の査定ですね。こちらではなく解体場へお願いします」
「解体場ですか?」
「はい。大型獣の素材は専門の担当者が確認しますので」
受付嬢は奥の通路を指差した。
「そのまま進んでください」
レインたちは礼を言い、枝肉を引きずりながら奥へ向かった。通路を抜けると広い作業場が現れる。血と革の匂いが混じった独特の空気の中、壁には様々な解体用の道具が並んでいた。その中央に一人の男が立っている。大きな革エプロン、丸太のような腕、そして首まで伸びた髭。まるで熊がそのまま人間になったような男だった。
男は枝肉を見るなり眉を上げた。
「ほう」
低い声が響く。
「新人がフォレストディアか」
レインは少し緊張した。男は無言で近付き、枝肉を確認し始める。角、皮、切断面、肉。手慣れた様子で次々と見ていき、しばらくして頷いた。
「悪くねぇな」
レインは少しだけ肩の力を抜いた。男はフォレストディアの首元を指差す。
「ここはちゃんと取れてる」
次に皮を見る。
「多少荒いが問題ねぇ」
さらに腹を開いた部分も確認する。
「初心者なら上出来だ」
男はそう言いながら髭を撫でた。
「完璧じゃねぇ」
その言葉にレインの肩が僅かに下がる。だが男は続けた。
「だが減額するほどでもねぇな」
思わず安堵の息が漏れた。講習で教わった通りにやった甲斐があった。男は今度は引きずってきた枝肉へ視線を向ける。こちらは少し顔をしかめた。
「こっちは削れてるな」
地面と擦れた部分の肉を指で押すと、土や小石が入り込んでいた。
「まあ仕方ねぇ」
短いナイフを取り出し、慣れた手つきで削れた部分を切り落としていく。無駄なく、素早く。レインが解体講習で見た教師よりも遥かに手際が良かった。
「この辺は商品にならん」
切り落とされた肉が脇の桶へ放り込まれる。だがそれでもフォレストディアは大きい。削られた部分など全体から見ればわずかだった。男は残った肉を見回しながら頷く。
「取れる肉は十分ある」
革も使える。角も状態が良い。魔石も問題ない。一通り確認を終えた男は帳面を取り出し、炭筆を走らせる。数字を書き込みながら計算しているようだった。レインは無意識に唾を飲み込んだ。これだけ苦労したのだ。少しでも高く売れてほしい。隣ではリリアも同じように結果を待っていた。
やがて男は帳面を閉じる。
「よし」
大きな手で帳面を叩いた。
「査定してやるから待ってろ」
レインの心臓が少しだけ早く鼓動した。今日一日の成果が、ようやく数字になる瞬間だった。




