03 テイマーの戦い方
チビが突然、足を止めた。
「……どうした?」
振り返ると、チビはじっと前方の茂みを見つめている。小さな耳がぴくりと動いた。レインも足を止め、腰の短剣に手を添えながら周囲を見回す。
「魔物か?」
「キュッ」
チビが小さく鳴いた。どうやら間違いないらしい。ここは森の浅い場所で、薬草採取に来る冒険者も多く、強力な魔物が出ることは少ない。それでも油断はできなかった。レインはチビの視線の先をじっと見つめる。茂みが揺れた。次の瞬間だった。
「キィッ!」
灰色の小さな魔物が飛び出してきた。
「ニードルラット……!」
レインはすぐに短剣を抜いた。小型の魔物だが、見た目だけで判断するのは危険だ。資料室で読んだ内容が頭をよぎる。ニードルラットは追い詰められると背中の針を飛ばしてくる。まともに受ければ怪我をするだろう。
「チビ、下がれ!」
「キュッ!」
チビが後ろへ跳んだ。同時に、ニードルラットの背中が大きく膨らむ。
「来る!」
数本の針が飛んできた。レインは身体を横へ投げ出す。すぐ横を針が通り過ぎ、後ろの木に突き刺さった。
「……危なかった」
地面に手をつきながら立ち上がる。やはり正面から戦うのは危険だった。短剣で斬りかかれば倒せるかもしれない。けれど、その前に針を撃たれればこちらも無傷では済まないだろう。レインはニードルラットを見つめ、それから周囲を見る。少し先に、浅い窪地があった。
「……あそこなら」
レインはチビを見る。
「チビ。あいつを誘導できるか?」
「キュ!」
チビが頷くように鳴いた。
「よし。無理はするなよ」
チビが駆け出した。ニードルラットの横を素早く通り抜ける。
「キィッ!」
ニードルラットがチビを追い始めた。
「そのまま!」
レインは反対側へ回り込む。チビはニードルラットの攻撃を紙一重で避けながら、少しずつ窪地へ誘導していった。
「もう少し……!」
ニードルラットがチビに飛びかかる。チビが横へ跳んだ。勢いのついたニードルラットは、そのまま窪地へ転がり落ちる。
「今だ!」
レインは駆けた。ニードルラットが体勢を立て直すより早く、短剣を振り下ろす。手応えがあった。魔物が動かなくなる。
「……倒せた」
短剣を下ろし、大きく息を吐いた。
「チビ、怪我は?」
「キュッ!」
チビが元気よく鳴く。
「そうか。よかった」
レインはニードルラットの死骸を確認した。大きさはそれほどでもない。肉も食べられるようなものではないし、素材として売れるものも少ない。それでも、倒せたことには意味があった。
「正面からやったら危なかったな」
自分の短剣を見つめながら、レインは思う。今の自分では、強い魔物を正面から倒すことはできない。テイマーだからといって、自分まで強くなるわけではないのだ。チビだって同じだった。ダンジョンラットは弱い。まともに戦えば、ニードルラットにすら苦戦する。だからこそ――。
「頭を使わないとな」
「キュ?」
チビが首を傾げる。
「お前と俺で、どうやったら勝てるかってこと」
レインはチビの頭を撫でた。
「お前が魔物を見つけてくれる。俺がどう戦うか考える」
チビは嬉しそうに目を細める。
「それなら、強い魔物だって……」
レインはそこで言葉を止めた。森の向こう、そのさらに先にあるものを思い浮かべる。迷宮。いつか、あそこへ行きたい。迷宮の深くまで潜ることができれば、今とは比べものにならないほどの金を稼げる。そうすれば、両親にもっと楽をさせてやれるはずだった。けれど、今の自分にはまだ無理だ。だから、今はこうして地道に力をつけるしかない。
「……まだまだだな」
短剣を鞘に収める。
「帰ったら、また資料を読もう」
「キュッ!」
チビが元気よく返事をした。レインは小さく笑う。
「よし。もう少し薬草を探すぞ」
「キュッ!」
二人は再び森の奥へ歩き始めた。




