02 薬草採取という仕事
ギルドの中は朝から騒がしく、依頼掲示板の前では冒険者たちが我先にと紙を剥がし、受付では職員が慌ただしく対応を続けていた。レインはその喧騒を横目に見ながら掲示板へと歩み寄り、目立たない位置に貼られた薬草採取の依頼書を手に取ると、そのまま内容を確認した。
「薬草採取 銅貨十五枚」、「止血草採取 銅貨二十枚」、「解熱草採取 銅貨十八枚」と並ぶ文字はどれも派手さのない仕事ばかりで、魔物討伐のような危険も報酬の夢もない。だがレインにとっては、生きて帰ることを前提にした現実的な選択肢だった。無理をして死ねばすべてが終わるという理解と、生き残りながら少しずつ稼ぐという判断が、静かに一致していた。彼は迷いなく依頼を受理すると受付で手続きを済ませ、そのまま都市の南門へと向かった。
南門前では荷車の列が検査を受けながら進んでいた。商人たちが商品を確認され、農民が朝採れの野菜を運び込む中で、衛兵が通行者を一人ずつ観察している。レインの姿を見た視線が一瞬だけ革袋へと移ったとき、黒い鼻先を覗かせたチビに対してわずかに眉をひそめながら「ネズミの管理はしっかりしろよ」と声をかけてきた。レインは短く「はい」とだけ返しつつ余計な反論を避けるように頭を下げて門を通過する。その瞬間、都市の中を覆っていた圧のような空気が背後へと引いていった。
城壁の外に出た瞬間、風の質が変わったことをレインはすぐに理解した。草原特有の湿った土の匂いと遠くの鳥の声が混ざる空気の中で呼吸を整えながら、周囲の地形と距離感を確認していく。単独行動の危険性を頭の片隅に置きつつも、依頼内容の効率を優先するために革袋を開いてチビを外へ出すと、黒い小さな体は勢いよく草むらへ飛び込み、地面を素早く走り回ったあとにすぐ戻ってきて「キュキュ」と鳴いた。レインはその反応から何かを察して、後を追うように足を速めた。
数分後、街道から少し外れた場所でチビが足を止めた。そこには背の低い緑色の草が群生している。細長い葉と根元の白い斑点が特徴的な、状態の良い薬草だった。
レインはしゃがみ込み、一本ずつ根を傷つけないよう慎重に掘り起こしていく。乱暴に引き抜けば商品価値が落ちてしまうため、手の動きは自然と一定になった。土の匂いと、薬草特有のわずかな苦味を帯びた香りが鼻先をかすめる。
「助かったよ」
隣で満足げにしているチビの頭を撫でて、小さく礼を言った。この場所は街道から少し外れており、普通の冒険者ならまず気付かない位置にある。そんな採取を成功させてくれたチビは、戦闘の役には立たなくとも、探索と発見においては確かな価値を持つ相棒だった。
一時間ほど経過する頃には、革袋の中はかなりの量の薬草で埋まっていた。依頼達成分だけでなく、余剰分の売却も見込めそうな量だ。
だが、その手応えを感じ始めた瞬間だった。チビの動きがぴたりと止まる。赤い瞳が草原の先を見据えたまま、低い警戒音を漏らした。
レインの思考は即座に切り替わる。腰の短剣へ自然に手を添え、呼吸を浅くしながら視線を追った。風とは違う揺れが草むらの中に生まれている。何かがいる、そう確信した直後、草が大きく割れて灰色の影が姿を現した。




