04 夕暮れまでには帰らないと
戦闘を終えた後、二人は静かに息を整えながら入口へ向かい始めた。レインは一歩一歩、同じ道を戻るように歩を進めたが、チビも注意深く先を警戒していた。
「レイン君、遅くなると、両親に怪しまれるよね」
リリアがふと声を潜めた。レインも頷いた。
「そうだ、今日は夕暮れまでには帰らないと。探索できる時間が限られている」
リリアも小さく息を飲む。
「私も、遅くなると家族が心配します。だから一階だけにして、早めに戻りましょう」
レインもその言葉に同意した。二人は再び足を速め、迷宮の通路を戻り始める。石壁を確かめ、曲がり角を覚え、同じ足取りで階段を登った。地上に出ると、風が冷たく頬を打ち、長く伸びた影が石畳に沈んでいた。帰り道はいつもより静かで、二人は淡々と歩きながら、自分たちの足音だけを頼りに家路を急いだ。
「レイン君、少し急いだ方がいいかもしれません」
リリアが歩きながら小さな声で告げると、レインも時間を確認してから静かに頷いた。
「そうですね、今日は夕暮れまでには帰らないといけません」
「両親に怪しまれてしまいますよね」
「そうですね、かなり怪しまれると思います」
二人は顔を見合わせると、同時に小さなため息を吐いた。
「でも、どう説明しましょうか」
リリアが困ったような表情を浮かべながら尋ねると、レインはしばらく黙って考え込んだ。
「今、考えています」
「何か良い方法は思いつきましたか?」
「まだ何も思いついていません」
レインが正直に答えると、リリアは少しだけ困ったように笑った。
「やっぱり難しいですよね」
「はい、迷宮へ行っていたことを知られたら、次から止められると思います」
「私の家族も、きっと同じだと思います」
二人は再び顔を見合わせ、どうすれば自然に帰宅できるのかを考え始めた。
「とりあえず、帰る前に服を綺麗にした方が良さそうですね」
「そうですね、このままでは明らかに不自然です」
レインが自分の服へ視線を落とすと、戦闘で付着した土や埃があちこちに残っていることに気付いた。
「これでは、普通に歩いていたと言っても信じてもらえなさそうです」
「私も同じくらい汚れています」
リリアが自分の服を確認すると、二人は揃って苦笑した。
「何か良い言い訳を考えないといけませんね」
「そうですね、今のうちに考えておきましょう」
「では、私は森を散歩していたことにします」
「その格好で森を散歩していたというのは、少し無理がありませんか?」
「……確かに、そうかもしれません」
「それなら、道で転んだというのはどうでしょうか?」
「二人とも転んだことにするのですか?」
「……それも不自然ですね」
レインが真剣な顔で考え込むと、リリアは堪えきれず小さく笑った。
「ふふっ、レイン君でも困ることがあるんですね」
「僕も普通の人間ですから、何でも解決できるわけではありませんよ」
「それなら、少し安心しました」
「安心するところではないと思います」
そんな会話を交わしながら、二人は少しだけ歩く速度を上げていった。
迷宮から無事に帰還することには成功したものの、家へ戻るまでには別の難題が残されている。
ギルドに戻った二人は、報告書を提出した後、魔石の換金を行った。手にした魔石はそれなりに数があったが、換金された額は思ったより少なかった。わずかな銅貨と銀貨が手のひらに収まり、レインもリリアも肩を落とした。
「このまま歩くと時間が短いんだよな」
レインが呟くと、リリアも頷いた。
「でも、乗り合い馬車だと費用がかかるし、結局稼ぎが減りますよね」
二人は考え込んだ末、結局歩いていくことを選んだ。次回は早朝に出発して、迷宮での滞在時間を伸ばすことにした。歩くことは辛いが、それでも二人は確実に一歩ずつ、自分たちの道を歩いていくと決めた。




