11 夕暮れの串焼き
鍛冶屋街を抜ける頃には、空はすっかり夕焼けに染まっていた。赤く染まった石畳の上を人々が家路へと急ぎ、市場も店じまいの準備を進めている。その流れの中で、リリアはまだ少し恥ずかしそうに頬を赤くしたまま歩いていた。
「本当に聞かなかったことにしてください……」
「努力はします」
「忘れてください」
「善処します」
「絶対忘れてないですよね」
「たぶん無理ですね」
淡々と返すと、リリアはがっくりと肩を落とした。その反応がどこか面白くもあり、からかい過ぎるのも悪いと思ったレインは話題を変えた。
「何か食べますか?」
市場の屋台を指差し、焼いた肉の香りが漂う方向を示す。その瞬間、リリアの腹が小さく鳴った。今度は二人ともそれに気付いてしまう。
「……食べます」
消え入りそうな声で答えるリリアを連れ、数分後には市場の端にある屋台の前へ立っていた。串焼きを二本買ったレインが一本を差し出すと、リリアは慌てて言う。
「払います」
「いいですよ」
「この前薬草の見分け方を教えただけですし」
「それ関係あります?」
リリアは笑いながらも結局受け取り、焼きたての肉を二人で無言のまま食べ始めた。チビにも小さく千切った肉を与えると、「キュッ」と嬉しそうに鳴く。その様子を見てリリアが微笑んだ。
「本当に仲が良いですね」
「長い付き合いなんです」
「どれくらいですか」
「覚えてないくらい前からです」
「気付いたらいました」
そう答えながら、レインはそれが事実であることを静かに受け入れていた。
夕焼けの中で食事を続けながら、市場の喧騒を聞いていた。リリアがぽつりと打ち明ける。
「私、家族には秘密なんです」
冒険者であることを隠している理由を、危険だから反対されるからだと語る。
「教会のお手伝いをしてるって言ってます」
レインはそれを聞いて、自分と似ていると気付いた。
「俺も秘密です」
「倉庫街で荷運びしてることになってます」
説明するとリリアは小さく吹き出した。互いに嘘を抱えながらも、同じ理由でそれを選んでいることに気付いていく。
「誰にも言いません」
「約束です」
そう交わし合った二人は少しだけ笑った。冒険者になってから初めて、同じような秘密を持つ相手と出会った感覚を共有する。市場の灯りが一つずつ灯り始める中で、帰る時間を迎えた。
「またギルドで」
「また」
短く別れを交わし、それぞれの方向へ歩き出す。だが途中で同時に振り返り、目が合った。少し気まずそうに笑ったあと、今度こそ背を向けて帰路についた。レインは革袋の中で丸くなるチビの気配を感じながら、夕焼けの空を見上げた。今日も大して稼げず、短剣も買えなかった。その現実を理解しつつも、不思議と気分だけはわずかに軽くなっていることに気付いていた。




